第6話:闘いの最中で
開いて頂きありがとうございます。
ジャスト三日で更新になってしまいました....が、とりあえず寝れたので嬉しいです。
カーダー君はどうやら筋力強化の術でも使っているようで、模擬戦用の剣を片手で持ちながら、僕の方へと歩んでくる。
「はははははっ!これで君を見ることも無くなるかと思うと清々しい気持ちになってくるよ!どうだい?今からでも降参するかい?今なら這い蹲り許しを乞うなら許してあげるよ?まぁ、それでも目の前からは消えてもらうけどね・・・ははははは!」
「・・・・・」
勝負が始まってからというもの、僕自身が感じた些細な違和感は、徐々に膨れ上がっていったけれど、今は決闘中だ。
違和感の正体を明確にしたいという気持ちはあったが、さすがにこればかり考えていられないだろう。
カーダー君は今のように喋りに徹しているようだが、これは流石に普通の人からしたら考えられない事のように思える.....戦闘中にこんなに喋るなんて自殺行為もいいところだ。
自分に強化魔法術を掛けて、油断しきっている彼を瞬さ....即座に倒す事も出来そうな気がするが、加減がわからないため、とりあえず最初は彼の攻撃を防いでみることにする。
「ん?どうした?黙りかい?まぁ、気持ちはわかるよ.....この僕が相手なんだからね!怖いなら怖いと言えばいいよ!さぁほら!」
「・・・・・」
彼が剣で直接攻撃してくるというなら、最下級か下級の防御障壁を張るべきだろうか?
身体強化で避け続けるのも可能だが、無駄に戦闘時間が伸びそうだし、" 魔力があり過ぎる "と第三者に訝しめられる可能性も無くはないから、あまり良い手とは言えない。
今回この決闘においては、彼に完全な敗北であるということを理解させなくてはいけないのだ。
負けてしまえば今まで以上に面倒なことになるであろうし、簡単に勝ってしまっても「何らかの不正をしたのではないか?」といちゃもんをつけられ、これまた面倒なことになる可能性も無くはない。
だから、完全な敗北を理解させるためには、もう何も出来ないというところ.....つまりは彼の魔力が無くなり、魔法を使用出来ない状態まで追い込むしかない。
「おいおい.....どうしたんだい?怖いとさえ言えないかい?ん?」
「・・・・・」
「・・・どうやら全てにおいて無能のようだな.....もういい!ならば、何も言わないまま無様に負けるがいい!!」
歩いて数歩のところまで迫っていた彼は、模擬剣を振りかぶるように構え、こちらに向かって勢いよく駆けてくる。
あまりしっかりとした構えではないが、僕に打ち込まれるであろうその剣には、重傷を負わせるだけの威力はしっかりと含まれているようだ。
だが.....僕だって、これまでの日々を無駄に過ごしてきたわけではないのだ。
僕に対する中傷はどうでもいいが、ライナの求める日常、姉さんの期待に応えるためにも
この闘い.....
ーー勝たせてもらう
構えの状態より更に上に振り上げられる剣。
勝利を確信した顔をした彼は「はあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」と声を上げながら地に足を踏み込み、自然体で佇む僕に向かって剣を振り下ろすーー
「【 我が身を護れ 】」
刹那、前方に構築される防御障壁。
その障壁は、六角形の小さな障壁が幾つも連なったものであり、その防御力は通常のものを遥かに凌ぐほどのものであった。
ガギィィィィィンッ!!
「なにぃッ!?」
思わずと言った様子で声をあげる彼.....一瞬、彼の顔に僕が防いだことに対する驚愕ではない感情が見えたような気がしたが、僕の気のせいだろうか・・・?
今、彼の顔は驚愕の色に染まっている.....それは、防がれたことに対する驚きでもあるだろうが、彼が驚いたのはそれだけではないはずだ・・・
カーダー君は僕と少し距離を取り、驚愕した顔から一転して何かを思案しているように見える顔になった後、驚愕した事柄について問いかけてくる。
「き、お前....何故詠唱が無いにもかかわらず、僕の攻撃を防げる?どうやって防いだ?」
術を発動するために必要とされる詠唱が無い・・・それは、普通ならば最下級の術であるという証でもある。
また、僕に対する攻撃は、剣と自身の強化により、少なくとも通常の下級の防御障壁では歯が立たないほどのものであったはず。
つまり、" 詠唱無しで下級を上回る術を展開できるはずがない " これが彼の言いたいことだろう。
「答えてはくれないようだな....」
彼は解答を望んでいるが、答えるつもりなど更々無い.....ましてや勝負中なら尚更だ。
そう.....人が定めた"下級以上は詠唱が必要である" という決まりが、僕の場合上級以上のみに適用されるということなど教えるつもりは、無いーー
まぁ、逆に.....上級以下は詠唱すると何故か発動する事が出来ないのだが・・・
カーダー君は、無言のままでいる僕に対し"チッ!"と、こちらにかすかに聴こえるほどの舌打ちをした後、再度模擬剣を構えて挑んでくる。
筋力強化によって強化された彼の斬撃には、敵を屠れるだけの力は有り余るほど含まれている。振り下ろす速度も十分にあり、一般的な感覚であれば"凄い"というべきであろう・・・
けれど、僕にその攻撃は通らない。
振り下ろされる斬撃、横薙ぎの斬撃、返しの斬撃を障壁を張ることにより無効にし、障壁の展開が間に合わない場合は、今まで培ってきた自らの身体能力によって、あえてギリギリのところで回避する。
"魔法術師は魔法術だけを使えるだけでは、いつの日か必ず蹂躙されてしまう"
母さんのその教えが、今までやってきた死にもの狂いの体術の訓練と共に活かされている。
彼は直接攻撃が無駄だと悟ったのか、模擬剣を叩きつけるように横に捨て、攻撃魔法術を行うために言葉を紡ぎだした。
・・・どうやら彼は中級の攻撃を行うようで.....使用した場合、そこらの家など木っ端微塵に吹き飛ばすほどのものを僕に向かって発動するようだ。
この学院の学生、3000人の中でも300人ほどしか使うことの出来ない中級の攻撃魔法術を彼が使えたとは思わなかった。
周りで見ていた教師達もそれに気づいたのか介入しようかどうか迷っているようだが、彼らがそうしている間にカーダー君の術は完成した。
「ーー!【 炎を纏いし煉槍 】!」
ゴオオォォォォォォォォォッ!
死を表したような劫火を纏った七つの大槍が
空中に具現化するーー
大気を焦がすような、圧倒的熱量を放つ大槍・・・
一つの槍ですら人など容易に屠ることが可能であるような暴威が七つ。
生徒達の中から上がる悲鳴。
教師達は、学院長と生徒会長であるクロト姉さんがこの事態に対し静観していたため、自分達も介入はせずに待機をするようだ。
もう彼は魔力をほぼ使い果たしてしまったようなので、先生達が今介入してくれれば僕としては大変嬉しいのだが、そう上手くはいかないらしい・・・
次の瞬間には、具現化されていた大槍の矛先が全て此方に向けられ、すぐさま僕を貫き燃やさんと飛来していたーー
が、効かない。
「【 外なる魔を打ち消さん 】」
先程の【 我が身を護れ 】と同様に、小さな六角形の障壁が幾多にも連なる一見脆そうな障壁が展開される。
いくら脆いように見えようとも、それは物理攻撃に対してのみ。
この障壁は、物理魔法術に対して効果を発揮するもの・・・
故にーー
七つの大槍は障壁に当たった瞬間、今までの凄まじい勢いが嘘のように崩壊していき、最後には、跡形も無く消滅した・・・
・・・
勝敗は決した。
リングの上には、自然体で構えている僕と崩れ落ちたカーダー君。
僕の感じている彼の残留魔力では、もはや僕に魔法術を放つことは出来ず、自身に強化を施し直接攻撃することも出来ないはずだ。
膝を地に付けて項垂れているため、彼の表情は伺えないが、勝負は勝負だ。
こんな言い方は好きじゃないが、条件付きの決闘では、いくら悔しかろうと敗者は勝者に従うしかないのだ。
勝敗条件が" 気絶 "もしくは " 降参 "であるのだから、今回は潔く負けを認めて、条件の通りにライナに関わらないようにするのが道理であろう。
もし、まだ抵抗するというならば、気絶させることなど厭わないという気持ちはあるつもりだ・・・
そうして先程の戦闘から少し経ち、彼を直視したままどうするべきを思案していると.....静まり返った闘技場の中で幽鬼のように立ち上がったカーダー君。
彼は "ゆらりゆらり" と左右に揺れながら、僕の方へと歩んでくる・・・
俯いたままであったため、表情は伺えないが、髪の隙間からこちらを見る目が爛々と輝いているように見えた。
距離が近づくにつれ、聞こえてくる怨嗟。
「.....ない.....負....ない.....負けてない.....負けているはずはない.....僕が負けるなんてありえない.....」
最初からそれほど離れていなかったこともあってか、現在彼との距離は五歩ほどしかない。
「.....僕はァァァァ!負けナァイィィィ!!」
その五歩ほどの距離から、突如叫び声を上げながらこちらの方に駆け出してきた。
彼の突然の奇行に驚きながらも、こちらとしては何時でも戦闘に移れる状態を維持しているため、迎撃体制を取る。
「【 我が身を護れ 】
彼は魔力がもう尽きている。
ならば彼にあるのは攻撃とは呼べないような物理攻撃のみのはず・・・
正常な判断を下せずに発狂しているような状態であるならば、そのまま突っ込んで来てくれれば、障壁との衝突で気絶に持ち込めるだろうという安易な考えで展開したものだ。
自分からしても、なんとも間抜けで阿呆らしい考えだと思ってしまったが、家族に負担を掛けないように一人立ち出来るまでは、あまり手の内を晒したくないという思いもあって、そうしたのだ。
そうして、目前に迫るカーダー君。
その安易な考えの通りに万事上手くいく......かのように見えた。
衝突する直前、今まで何も無かった彼の左手に握られていた小剣.....。
その小剣が展開されていた障壁に接触する。
先程の時と同様に、防ぎ反発するはずの斬撃。
けれど、その斬撃は障壁を砕け散らせるように破壊したーー
「ーーッ!」
戦型対障壁用ッ!!
彼との距離は、もはや零と言っていいほど近いもの・・・
彼と僕との間を隔てるような物はない。
彼は一歩踏み込み、小剣を振り翳した
その時、刹那に見えた彼の顔には、狂ったような感情は一切見て取れなかった・・・
唯々、僕を倒せるという純粋な喜びがあったのだ。
彼の顔を見て思った。
ああ、そうかーー
心の奥底では、彼を舐めていたのだ、とーー
決闘なら力を出さなくても、勝てるだろうと
勝手に思い込んでいた.....
彼は決闘に勝利するために、あえて愚か者を演じていた....そう"勝利"のためにだ!
僕は馬鹿だ......本当の大馬鹿者だ。
人外なる魔物が跋扈し、戦いが起こるかもしれないこの世界で、僕の愛する大切な人達をこんな思いで護れるか?
否。護れない.....こんな軽々しい思いなんかでは護れないッ!
誰も失いたくないッ!また誰かを失うことになるなんて、僕にはもう耐えられない・・・
「リヒトぉぉ!」
会場に居なかったはずのライナの声が聞こえた。
そう.....護るべき人はいる。
今からでも遅くはない.....
この誤った思いを正すために、護りたいものを護れるためにーー
僕は・・・力を発現しようーー
そして、刹那の中での僕の決意とともに、彼の思いの篭った剣が振り下ろされたーー
読んで頂きありがとうございます!
戦闘描写....自分には途轍も無く難しいものであります....orz
まぁ、今回は描写とも呼べないようなものでしたが......
もっと上手く書きたいものです;;
誤字脱字などありましたら、ご指摘ください!感想もお待ちしております!