理由(2)
土方さんが無事に戻ってきたことで、場はまた和気あいあいの賑やかな会話に包まれて土方さんはもう魚をほおばってる。
でも少しは懲りたのか、飲み物はお茶に変えてる。肝心の犬澤さんはもと通り淡々と野菜の鍋を食べ始めた。
「あの、犬澤さん」
「ん?」
「犬澤さん、平気なの? あんなにお酒飲んで」
「ああ、あれね。胃や腸がアルコールを吸収しなければ呑んでないのと同じだからね」
「え?」
「アルコールを取り入れた時、胃の幽門を閉じて、腸の蠕動運動の動きを止めておけば、どれだけ呑んでも関係ないよ。
必要なくなれば胃に入れていた分を外に出してやればいい。
例えるならこっちの容器に入れておいたものを、こっちの容器に移し変えたみたいなものだね」
笑って答えてるけど、そんなことどうやればいいのかしら。
「……犬澤さんって、どうしてこの探検に参加したの?」
「どうしてって、イトナの伝説はもう聞いた?」
「ええ、土方さんから聞いたけど」
やっぱり伝説知ってたんだ。
「そういうこと。言っておくけど、あれは作り話じゃないよ」
「それって、イトナは本当にいたってこと? まさか、あり得ないわ」
あったとしても、妖怪なんかじゃなくて、きっと山賊か何かよ。
「ここの民間伝承や神話を調べると、ある一定期間確かに何かがいたことは明らかなんだよ。
それにD大学の植物研究チームに参加した人に直接聞いたことがあるからね」
あたりまえみたいに普通の顔しながら言うけど、信じられることじゃない。
だいたいわたしたちがポッと行ったところで、何なのか分かるはずなんてないし、分かりたくもないわ。
「それより湖宮さんこそどうして一緒に来たの? オレが参加するより不自然だと思うけど」
「そ、それは……」
そんなこと、言っても信じてもらえることじゃない。
わたしが自然世界からそうするよう言われたからだ、なんて……。
この自然世界、この次元はとても微妙なバランスで。全体が保たれている。
このバランスが乱されることは滅多にないけど、偶然あるいは意図的に『異次元』からの侵入で乱されることがあるの。
それは、病原体、ウイルスのようなものに当たるらしく、人に例えるなら、重篤な病気と同じ状態が世界に起こされたと言えるらしい。
だからこの自然世界はそれに対向するために、免疫の役目を持つ突然変異体を創り出すことにしたの。
……それがわたしたち。
わたしたちには異次元からの侵入に対抗できるよう特殊な能力を任されていて、中でも大きな能力を持っている28人は『ふたや』って呼ばれてる。だけどなんでそう呼ばれるかは知らない。
本気で能力を出したら精神力・体力ともに500倍は出せる。だけど、いつもそんな能力が出せるわけじゃなく、その能力が必要となった時だけ出せるようになってるの。
特殊な能力っていうのは、光。分子。空間。電気・電磁波。気圧。温度。重力。音波の8つ。
その中で、わたしは温度を操ることができる。
わたしたちには特定の名前は決まってない。
中には『ツの者』って呼んでる人もいるけど、わたしたちの中で、わたしたちって言えば、それで意味は通じるし必要ない。もちろんわたしたちは外見で見分けはつかないし、普通に社会生活してる。
このことはお兄ぃも親も知らないし、まだまだ自分がそうだって気づいてない人もたくさんいると思うわ。
わたしたちが次元バランスを修正してる最中は、世界は奇跡を起こしてくれる。次元の矛盾を修正するための矛盾……矛盾してはいるけど、これまではなんとかなってきた。
呼び出される時は……なんとなく分かる……風にささやかれるって言うのかな。だけど絶対に気のせいじゃないささやきなの。
「いいよ、言いたくないなら。オレの興味本位だけだからね」
にっこり笑った犬澤さんは、もうそれ以上このことは口にしなかった。
お兄ぃたちがまだ騒いでいる中、犬澤さんは1人で鍋を片付けて部屋に戻っていく。
さてさて、わたしも。
大学生の底なしパワーには付いて行けないわ。さっき倒れた土方さんでさえ、もう元気になってる。もう少しおとなしくすればいいのに。
「お兄ぃ、明日の出発は何時から?」
「ええっと、昼前からでいいか?」
「意義な〜し!」
みんなは上機嫌で賛成した。




