到着(2)
「お兄ぃ〜ここから宿までどのくらい?」
わたしのことなんて、てんで無視してだらしなく女の子と話すお兄ぃに後ろから声をかけると、「ほんの20分も歩けばすぐさ」なんて言いながら、自分はしっかり女の子の荷物を持ってる。もう!!
「着いた着いた、ここだ」
そこは旅館っていうよりも、大きくて古い日本のお屋敷……古いけど立派って感じの建物だ。
だけど、こんなところで商売やっていけるのかな?
「わあ、なんかスゴク雰囲気ある〜」
「そうだろ、ここは隠れた名所なんだ。今の時期はちょっと閑散としてるが、祭の時期には予約でいっぱいになるんだぜ」
益原さんが嬉しそうに言うと、土方さんが自慢げに胸を張ってる。
「それに、何といっても郷土料理が有名だからな。楽しみにしていてくれ。それより、とにかく中で休もう」
お兄ぃが笑って言うと、クタクタだったみんなに期待で笑いが戻った。
「こんばんわー」
中に入ると、お屋敷の雰囲気は残したままで、ちゃんとエアコンが効いてて涼しい〜。
生き返る〜。
「はい、はい、いらっしゃいませ」
カウンターじゃなく帳場風に作られた受付からは、まさにこのお屋敷の雰囲気にぴったりの背筋のシャンとしたお婆ちゃんが出てきた。
この人がここの女将さんのようだ。
「遠い所からよう来なさった、さあ、どうぞ」
笑って迎えてくれる顔は、何年も歳を重ねた重みと深さが感じられる。
「お部屋は3つでしたの、こことここ、それにこっちの部屋を使ってください」
隣り合わせの男部屋と女部屋、それとは少し離れてわたしの部屋……まあそのほうがお兄ぃもいろいろ都合があるんだろう。
「余ってればで構いませんが、もうひと部屋お願いできませんか、どんなところでもいいですから」
犬澤さんが女将さんに尋ねてる。この人っていつもいきなりなのかしら? 団体行動向きじゃないわね。
「ここ2、3日はあんたがたしか来られんから、いくらでもあまっとりますけえ。好きな部屋を使ってください」
「ありがとうございます。じゃあ遠慮なく」
わたしとお兄ぃたちの中間くらいにある部屋を指す。
「それじゃそちらの鍵を持ってきますので」
女将さんが立ち去ると、お兄ぃたちは自分に当てがわれた部屋に引き込んで行く。
「荷物、部屋まで持って行くよ」
犬澤さんがわたしに声をかけた。
あ! そうだった、わたしの荷物持たせたまま。
「いいです、もうここですから」
「そう。はい」
ヒョイっと差し出された荷物を受け取ると、ズシッ! うわ、重たい。よく平気な顔で持ってられるわ。そんなに力があるようには見えないんだけど……。
改めて犬澤さんを見ると、自分は使い古した小さなカバン1つしか持って来てない。
2泊3日、着替えとかどうするのかしら?
「お待たせしました」
女将さんが戻って来て、鍵を受け取った犬澤さんとわたしはそれぞれ部屋に入った。
あ、犬澤さんに荷物持ってもらったお礼ちゃんと言ってなかった。あとで言っておこう。
気軽な服装に着替えてからお兄ぃのいる部屋を訪ねると、もう部員の人たちと女の子は集まっていてお茶飲みながらくつろいでた。




