平等(2)
「清め塩だよ、知り合いの本物の霊能者に物質化してもらったんだ。
これまで物理的にイトナを封じ込めてたアシカセを霊的に変えてやればもう物質世界に干渉できなくなる。
それにしても、昔イトナを退治した坊さんってすごい人だったんだね。
オレたちが2人がかりで、しかも片目。遠近感のない状態のイトナにこれだけ苦労したっていうのに。
このアシカセを作ったのもその坊さんだと思うけど何百年って時間が経ってるのに、今まで封じ続けてるんだから」
わたしに聞かせるわけでもなく、ひとり言のように犬澤さんはつぶやいて、すっと地面に見慣れない漢字を書いた。
「イトナね、『塋』って書くんだ。
『墓』っていう意味でね……確かにたくさんの生き物を喰らってきた妖怪かも知れない、でも同時に喰われた生き物たちの墓場だったのかも知れない。
喰われたくない、死にたくないって思いが生みだした想念としてのね。
喰う側と喰われる側。
とても不公平な関係でありながら、種族全体、生物全体を通して考えると、どちらに対しても繁栄するように作られた自然の高度な社会システムとして成り立ってる。
どちらが良い悪いなんてことじゃなく、人間が干渉さえしなければ1つのニッチとしてその地域において完全ともいえる形で成り立つんだ。
その中に割り込む人間は……いや、これは仕方ないことなんだろうね。
今はその時期だから。
『塋』って文字ね、『営む』と同音同意でもあるんだ。
日々の営み……生物にとって生きて行く上で最も関心ある行為、『食』の行動と同じなんだ。
毎日が食べるか食べられるかの食物連鎖……」
「……イトナの目って、なんだったの?」
「目が見えるためにはなくてはならないもの、そして湖宮さんが教えてくれた地形としての目が見つめてたもの。
世界のどの宗教でも共通してる目のシンボルがあるんだ。当たり前すぎて見落としてたよ」
彼が指す先には、真夏の太陽が強い日差しを輝かせていた。
「坊さんとイトナが戦った時は、おそらく太陽と月が一緒に出てたんだと思うよ。
日本の神話でも月は右目、太陽は左目とされてるからね」
手で影を作って本物の太陽を仰ぐと、緊張で忘れかけていた暑さが戻ってきた。
「さて、そろそろ限界だ」
今まで元気だった犬澤さんが、ヨロヨロ木陰に歩いて行ってペタッとだらしなく座る。ま、いいかあれだけ動きまわったんだもの。疲れて当然よね。
それにしても彼ボロボロ。なりふり構わず逃げ周ったんだから当然だけど、あちこちから血もにじんでるし。
わたしのほうは……気にしない。着替えたくさん持ってきて良かったわ。
少しは疲れたけど、世界から分けてもらうエネルギーのおかげでほとんど回復してる。
だけど、わたしも隣に一緒に座ることにした。




