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能力(2)


 驚いて反応できなかった。

 棒立ちのわたしに凶暴な口が迫る。

 もうダメ、今度こそダメだわ。


 ドゴン!!

 鈍くてすごい音が響いた。

 犬澤さんが走ってきて、大口の直前で1回転して頭……といえるかどうかは分からない……に踵蹴りを決めた音。

 朝に見せてくれたなんとかって武術の技だわ。

 大口はその勢いで地面に叩きつけられてる。

 そうだ! 凍らせなきゃ。

 地面に溶け込んでしまう前に、もう1度ガチガチに凍らせる。今度は上手く行ったわ。

「ごめんなさい、わたしまた……」

「無事で良かったよ。今のうちに目を探そう」

 あ〜〜〜ん、情けなーい。なんで世界から選ばれたわたしより犬澤さんの方がすごいの?

 しかもちっとも嫌味じゃないなんてズルイわ!!

 なんて言ってても始まらない。目よ目。それを見つけるのが肝心よね。

 大口を横目で見ながら周囲を見渡すけど……だめ、分からないわ。

 大口からギシギシと嫌な音が聞こえてくる。怪物でさえなければ日の光を反射して輝く不思議なオブジェなんだけど……それに、これのおかげで涼しいし。

「勘でいいから、湖宮さん適当に指してみて」

 背中越しの犬澤さんが言いだした。

「え〜〜〜、わたしぜんぜん分からないわよ」

「いいよ。こんな時は女の人の直感を信じる方が確率が高いんだよ」

「あ、それってジンクス? それとも差別?」

「雄と雌を分けて、同じ危険にさらした場合、雌の方が回避率と生存率がずっと高いんだ。

 種族保存には雌の方が重要な役割を持ってるし、遺伝子の複雑さにおいてもはるかに雌の方が優れてるからね。

 雄にない危険回避能力が備わってるのかも知れないね」

「……はいはい」

 味もそっけもない。だいたいメスとかオスとかいわないで欲しいわ。

「あの木のコブなんてどうかしら」

 あやしそうなところを指さすと、わあ! 一瞬で飛んでコブにウメガイが突き刺さ……らないでブヨッとへこんだ。

「違った。他には!」

 え?! ええっと……。

「祠の右横に生えてる木のちょっとした裂け目」

 カツーンとウメガイが刺さる音。

 ひょっとしてナイスヒット?

「違う、音だけ。次は!」

 瀧の中。水辺の平たい石。バーベキューセットが引き込まれた辺りの水中……。

 次々外れる。どれなのよお〜〜〜!!


「そろそろ大口がくる!! 気をつけて」

 あ! 目のことばかりに気が行って、口のこと忘れてた。

 わああ、もうほとんど地面に溶け込んでる。

 危なかったわ。

 またどこからか現れるのを待つ緊張感……じわじわと忍びよる違和感。


「オレの真後ろ!!」

 自分で叫んで飛んで逃げる犬澤さん。空間から生える鋭い牙を持った口を再び氷点直下。

「どうするの? わたしもう思いつかないわ。ねえ本当に祠は関係ないの?」

「うん。あれはアシカセっていって、イトナをこの空間に縛りつけておくものだから、逆にあれを壊すと収拾がつかなくなる」

「そうなの……ところで関係ないかも知れないんだけど、襲ってくるのって足下からが多くない?

 ひょっとして見てるんじゃなくて、わたしたちが立ってる触感で感じてるってことないわよね」

「足下から……そういえば……」

 ふっと考える仕草をしたとたん大きく目を見開いてわたしの顔を見つめる。

 なに? なに? 今度はどこから出てくるの!

「そうか! 目だよ!!」

 いきなり、でも、いまさら何を叫んでるのよ。


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