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能力(1)


「どうするのよ!?」

「とにかく周囲を観察するしかないよ。

 常にオレたちを見つめてる何かがあるはずなんだ、それを見つけて、うわ!」

 犬澤さんをめがけて、空間から魚の口が飛びだした。

 わああ、離れて見るとすごい。背筋がゾッとする。絶対食べられたくないわ。

 とにかく目を探すことね。それしか助かる道はないもの。っていってもそんなものどこにあるのかしら?

 目らしいものなんて何も……。

「後ろ!! 湖宮さん!」

 反射的に飛び上がって避けたら、10メートルくらい上の空間で、ボヨンとした何かに突き当たって跳ね返される。

 きゃあ! このまま落ちれば食べられるわ!

 無駄なの分かってたけど、必死で手を伸ばすと膨らませた風船のような感触が何もないはずの空間にあった。

 何よ? これ。

 よく分からないまま空間にしがみついて口が引っ込んでいくの待って、地面に着地。

「空に柔らかいものがあったけど、なんなのかしら」

「それがイトナの体の外側部分に当たるところ。この空間全体が覆われてるんだ。

 触れるのに物理的じゃないのがやっかいだけどね」

「力ずくじゃ破れないの?」

「例えば人の心は物理的に潰せないのと同じだよ。

 心理的な攻撃だとあっさり潰せるんだけどね」

 こんな時に笑い事じゃないことを……。

「また来た真下!!」

 犬澤さんの声と同時に飛んで逃げる……はずだったのに、

 あっ! と思う前にわたしは足を取られてた。

 ここがイトナの中だってこと忘れてた。足下の草がいつの間にか結ばれてるなんて思いもしなかったもの。

 こんな所で死んでたまるもんですか!

 だけど、体がスローモーションで落下していく……。

「飛んで!」

 その時、犬澤さんがわたしの体を抱えて、大口を足でつっかえながらわたしを放り投げた。

 ちょっと待って、犬澤さんはどうするの?

 宙を飛びながらわたしは左手を大口に向けた。

 ええいっ!!


 大口を中心に周囲が真っ白な色に包まれた。

 わたしの能力。

 世界を護る者として、自然から操ることを許されているもの。


 温度。


 わたしは摂氏3000度からマイナス200度まで操ることができる。

 凍りついた大口から犬澤さんが脱出する。やっておいてなんだけど大丈夫かしら。マイナス50度で凍らせたんだけど。

 バキバキ音を立てながら、大口が地面に姿を変えて行く。まるでコンピュータグラフィックを見てるみたいね。

「襲ってくるイトナの口を凍らせることは連続してできる? 有効範囲は?」

 なんの疑問もなくわたしの能力だって受け入れて、注意深く周りの様子を伺いながら犬澤さんが尋ねる。

「範囲は半径50メートル以内ならできるわ。何度でもできるわよ」

「次に出てきたら、できるだけ低温で凍らせて。

 上手くいけば一部分でも退治できるし、そうでなくてもこれまで1回につき1つずつしか襲ってこなかったことから考えて時間かせぎにはなるからね」

「分かった、やってみる」


……だけど、妙な間があいた。

 さっきまでは次々襲ってきてたのに、わたしが凍らせてからはなかなか襲ってこない。

「どうしたのかしら。まさかわたしに恐れをなしたとか……」

「ありえるね。突然の反撃に警戒してるんだと思うよ。ただ、そのほうがよけい怖いけどね」

 油断なく周囲を見渡しながら答える犬澤さん。

 少しくらい安心させること言えないのかしら……あ、また違和感がする。近づいてきてるんだわ。

「ほらきたみたいだ。今度のはかなり大きいね。

 注意して。飛んで逃げたところがまだ口の中ってこともあるから」

「分かってるわ、犬澤さんこそ気をつけて」

「うん。ありがとう」

 違和感が強まったり弱まったり……警戒しながら、それともフェイントなのかも知れない動きで少しずつ近づいてきてる……。

「きた! 右の正面!」

 わたしの斜め前からこれまでよりはるかに大きな口が飛びだしてきた。

 大きすぎて分かりづらいけど猫の口!!

 一気にマイナス200度。

 わたしの操れる1番低い温度で口を凍らせて動きを止める。

 今度はそう簡単に溶けないわよ、無理に動こうとするとコナゴナになっちゃうもの。

「まだだ! 反応が残ってる!」

 え? まだ?

 そのとたん凍りついたオブジェがガラスのように割れて、中からこれまでと同じサイズの凶暴な口が飛び出して……!


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