出現(2)
あっけに取られた。驚くなんてものじゃない。やっぱり犬澤さんっておかしいわ、もう断言する。
「その通りだけど、どうして仲間でもないのに分かるの?」
「総合計は湖宮さんが言った1600人。
君の上に4人いて、次に28人。
4人に対して各7人ずついるからその下にまた各7人ずついるとして196人。
さらにその下に7人ずついればちょうど1600人、その数になる。
でも正確にはもう1人、族長の役割をする人はいない?
いるなら『ひ』と呼ばれてる?
それともその役割をしているのがささやきを送ってくれる存在なのかな?」
「はっきり言われてるわけじゃないけど、そうかも知れないってウワサだとそう呼んでる人もいるわ。
だけど、そんなことまで分かる犬澤さんの頭の中どうなってるの?
ううん、それよりこんな話いきなり信じるっていうのがそもそもおかしくない?」
「こんな時にわざわざそんな話をするために戻ってくるほうが無理があるよ。
それなら事実と考えるほうが話が早い。
その上で話にいくつかの仮説を立てて理論的に筋が通ればそれでいいよ」
「それでいいって……理屈さえ間違ってないなら、簡単に詐欺に合いそうな勢いね」
「大丈夫だよ、オレ悪人だから。
それより、イトナはもう目の前にいるんだけど。湖宮さんにはそれが見える?」
悪人って……自分でそんなこという人ほど危ないのにって、言ってられないわ。
イトナがもう目の前にいるの?
正面を指す犬澤さんの先にあるのは……瀧と池、池の真ん中にある小さい島と何本かの木々、そして祠。
何も変わったものは見えないけど……。
「誰にでも見えてたんだよ、最初からね」
……最初から見えてたの? ってことは今見えてる中の何かがイトナってことね……それなら、1番怪しく思えるのって……やっぱり祠ね。あれだけが人工のものだし。
「祠でしょ、あれがイトナなんだわ」
「残念、それじゃ喰われて行方不明。だから心配してて、すぐに解かるよ。
思わず話し込んだから、もう湖宮さんを逃がせるだけの時間もないからね。やるだけやってみるよ」
その時ものすごいイヤな感じがした。
なに? この感覚って気持ち悪い。うう……なにがくるの?
「きた! 足もと!」
犬澤さんが叫ぶと同時に、振り返ってわたしを抱き上げジャンプ!
今までわたしたちが立っていたところが、まるで口をパカッと開いたかのように割けて大きな牙が突き出す!
……これって、どうなってるの。
犬澤さんはわたしを抱えたまま、数メートルの距離を飛んでた……人間技じゃないわ。
次元バランスを守る仲間ってわけでもないのにどうして? いけない。このままだと足手まといだわ。
「分かったわ、今みたいに飛んでよければいいのね。降ろしてくれる」
「下からの場合はね。
イトナっていうのは『この空間』なんだ。
いってみればオレたちはイトナの内部にいることになるんだ」
「空間を擬態? そんなのって……」
異次元生物でも聞いたことないわ。
「とにかく、今のわたしは運動神経だけなら犬澤さんよりいいから次は助けてくれなくていいわ。様子見て対策練りま……」
「右!」
反射的に左右に散ってその場を離れる。
右側の空間がガバッと開いて、今度も牙のようなのがガチッと空間に噛みつく。
「あら、丈夫そうな歯だったわ」
「うん、でも人生最後の言葉がシャレだったってのはできれば避けたいね」
あはは……笑ってられる間に笑っておこう。
「来た、湖宮さんの上!」
しゃがみながら地面を蹴り、犬澤さんまでの距離約3メートルを一気に飛ぶ。
振り返った瞬間、巨大なクチバシが見えた。
「どうして犬澤さんには、イトナの動きが分かるのよ?」
「ウメガイだよ。これがイトナの動きに反応してくれるんだ」
「そんなの1人で持ってるなんてズルイ!」
「他にないんだ。それにこれを湖宮さんに渡しても、まず使えない。オレもかなり訓練して……下から!」
ガバッと獣のような口が足下から突き出る。
「このままじゃラチが開かないわ、イトナを倒す方法は?」
「目を潰すんだ。伝説でも坊さんが片目を持って降りてきたよね、1つは失ってるから、もう1つ潰せば動きを封じることができる。その隙にもう1度、今度は本体を完全に封じ込める」
「目が2つって限らないんじゃないの?」
「空間から出てくる生き物の口を見る限り、2つ目の生物ばかりだからたぶん大丈夫。もし違ったら、運が悪かったとでも思ってあきらめ……きた、正面!」
巨大な口が目の前に開く……それは、人間の口。
「それで! その目はどこにあるの?」
分かってるんだったらさっさと片付けちゃいましょ。それが1番よ。
「それが解からないから困ってるんだ」
え〜〜〜〜!?




