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到着(1)


 都会から離れ、神秘の匂いがたちこめる大いなる自然の中へと進む列車が、やっとその入り口に差しかかった。

 夕方になって少しは涼しさが戻ってきてるけど、昼間の暑さはまだ地面からゆっくりと立ち昇り、冷房も付いてない車内はじっとり蒸せ、窓から吹き抜ける風にわずかな救いを求めてる。


 遠かったあ〜。

 しゃべるのも疲れた〜。

 電車のイスが固くて体イタイ〜。


「ほ〜ら、やっと見えてきた。あれが入った者は2度と出られないという伝説の残る往絡おうらく山だ」

 周りのみんなにお兄ぃが説明するけど、今はど〜でもいい。

 朝出発してからもう7時間もバスや電車に揺られてる。わたしは、とにかく体伸ばした〜い。

 あ〜あ。やっぱりこんなとこ付いてくるんじゃなかったかな?


 わたし? わたしは湖宮明咲季こみやあさぎ。高校3年よ。

 わたしのお兄ぃは大学で探検部なんてあやしいサークルに入っちゃって、おまけに部長なんてものになっちゃってる。

 と言っても部員はたったの6人、そのうち半分は幽霊部員だから実際は3人だけ。

 ずっと昔にサークルができた当時はけっこうディープだったらしいけど、今じゃ探検と称して山奥の温泉旅行に出かけるくらいしかしていない。

 この探検だって、なんかの伝説が残ってるってのは表向きで、大学の女の子誘って古びているけど土地の美味しい料理出してくれる旅館に行くのが本当の目的なの。

 今回の探検に参加してるのは、わたしを合わせて7人。

 お兄ぃと部員の土方さんと矢吹さん。

 女の子は益原さんと杉田さん。

 それにもう1人……「往絡山に行くなら、ついでに交ぜてもらえないかな」って、部員じゃないけど今日の朝になって同行することになった犬澤修仁いぬさわしゅうじさん。


——終点、往絡山です——

 車内アナウンスがやっと降りる駅をつげた。


「よーし、到着だ。荷物下ろすぞ」

 お兄ぃがみんなに声をかけると、半分グッタリしていたみんながホッとしながら動き出す。

 だけど犬澤さんだけはキビキビ動いてる。

 この人ってば、一緒に来てるのに、少し離れた場所に座って出発から今までずっと本を読んでた。

 お兄ぃたちが話しかけても読んでいる本から少し目を離して生返事しか返さないし、お菓子やジュースも「いらないよ」と言うだけで、ぜんぜん輪の中に溶け込もうとない。

 愛想悪〜い!!

 だけど、なんか、こう……惹かれるものがあるのは何だろう?


「犬澤ってあんなに感じ悪いやつだったか?」

「私同じ講座だけど、普段はあんなじゃないのに。おかしいな?」

「あいつなら往絡山の伝説とか、詳しく解説してくれるって期待してたんだけどな」

 ナルホド。普段は愛想いいのね。わたしの直感は当たってるってことね。何かあったのかな?


 駅に到着した列車はそのまま明日の始発になるらしく、あせらなくていいんだけど、大きな荷物に手間取ってるわたしを完全無視でお兄ぃたちがサッサと降りて行く。

 薄情もの〜!

「大丈夫? 手伝うよ」

 振り返ると、わたしが苦労してた荷物を犬澤さんが軽々持ち上げる。

 あれ……親切?

「お、お願いします」

「うん。まかせて」

 さっきまでの愛想の悪さはどこにいったのかってくらい、にっこり笑う。

 ま、荷物も重いことだし頼んでおこう。


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