第4章:プライベートアリーナのスクリム
プライベートな闘技場。
一般の観客は入れない、静かな場所だ。
スーツ姿の男が歩いてきて、拍手しながら言った。
「よぉ、ケン。これが君のタレントだ。」
男はノアを指さす。
「よぉ、カズマ。そうだ、こいつが俺のタレントだ。」
カズマはノアを見て、少しだけ笑った。
「で、どうだ?
こいつは練習相手として使えるか?」
ケンタロウがノアを見て言う。
「たぶん、使えるよ。
ノア、どう?」
ノアは淡々と答える。
「うん。君の魔法使いを怖がってない。」
そこへ、若い男が近づいてきた。
彼がユウだ。
「カズマ、こいつが俺のスクリム相手か?」
ユウが言う。
「そうだ。ユウ、こいつが相手だ。」
ユウはノアを見て、嘲笑うように言った。
「へぇ……ガキか。
Fランクが、Cランクの俺の相手になるのか?」
ノアは表情を変えずに言う。
「私はあなたを強くするための練習相手だから。
だから、負けてあげてるだけ。」
ユウはムッとした。
「……ふん。」
少しして、ノアとユウはアリーナに立った。
距離を取り、構える。
レフェリーが声を出す。
「準備はいいか?
ルールは公式トーナメントと同じだ。」
ノアは頷く。
「はい、準備できてます。」
ユウも軽く返す。
「俺も。」
レフェリーが合図をする。
「では、開始!」
ユウが最初に動く。
速い。
そして、狙いがはっきりしている。
「Windtalker!」
風の刃がノアへ向かう。
ノアは跳び、避ける。
何度も方向を変え、結界のギリギリまで寄る。
ユウが笑う。
「避けるだけか、お嬢さん?」
ノアは無表情で返す。
「私は君を強くするための相手だから。
だから、勝たせてあげてるだけ。」
ユウは少しイラッとした。
「……そうか?」
ユウは魔法を変える。
「Wind of Nature!」
風の剣が飛んできた。
ノアはそれを見て、ただ一言。
「Cut Off。」
風の剣は真っ二つに割れて消えた。
ユウは目を見開く。
「な…!
Wind of Natureが割れた!?」
カズマは観戦しながら、驚いた顔をしていた。
(……これは普通じゃない)
ケンタロウは微笑みながらも、目は真剣だった。
(この子は……)
ユウはさらに距離を詰める。
「Dash Wind!」
突進して、近距離で殴りに来る。
パンチが放たれる。
だが、ノアはその手を掴んだ。
一瞬だけ、風の衝撃が走る。
ユウは一歩下がり、驚く。
「な…?」
ノアは冷たく言う。
「もう強いの?
ケンタロウから聞いたよ。
公式のCランクトーナメントに出るって。
強い相手と練習したいって言ってたね。」
ユウは心の中で叫ぶ。
(この女、なんで俺と同じくらい戦えるんだ?
本当にFランクか?)
カズマは息を飲む。
「ケンタロウ…
この子はどこから来たんだ?
ユウがここまで追い詰められるなんて…」
ケンタロウは冷静に答える。
「彼女は……普通じゃない。」
ユウは攻撃を続ける。
ノアはそれを全部受け止める。
そして、ユウは焦り始めた。
「くそ…!」
ユウは手を掲げ、風の力を集める。
「Tornado Storm!」
巨大な竜巻がノアへ向かって吹き荒れる。
ノアは静かに立っている。
そして、また一言。
「Cut Off。」
竜巻は分断され、消えた。
ユウは叫ぶ。
「な…!?」
ノアは言う。
「まだ未熟だ。
その竜巻をもっと上手く使うべきだった。」
ユウはそのまま、同じ魔法をもう一度使おうとする。
その瞬間。
レフェリーが声を上げる。
「反則!
勝者はユウ!」
ノアは驚いた。
「え?
なんで私が負けるの?」
レフェリーは説明する。
「相手の技を真似するのは禁止だ。
よってノアの負けだ。」
ユウは混乱しながらも息を荒げる。
「なんで真似したんだよ!
ふざけんな!」
カズマはノアを見て、静かに言った。
「……お前、ただのFランクじゃないな。」
ケンタロウは微笑んだ。
(これは……投資対象だ。)
ノアは肩をすくめる。
「負けたけど、練習相手にはなれるでしょ。」
ユウは困惑した顔で言う。
「なんで……負けても平気なんだ?」
ノアは淡々と答える。
「勝つ必要がないから。」
静寂を破ったのは、カズマの声だった。
「でさ、ケン。
ノアが負けたんだから――金はどうする?」
その一言で、空気が変わる。
「……あ」
ケンタロウは一瞬、言葉に詰まった。
ノアは目を瞬かせる。
「え? お金?
これ、ただの練習じゃなかったの?」
そう言って、ケンタロウを見上げた。
ケンタロウは視線を逸らし、頬を掻く。
そして、どこか申し訳なさそうに口を開いた。
「……あー、言い忘れてた。
今回のスクリム、賭けありだったんだ」
「勝った側が、相手の用意した金を総取り。
……まあ、そういうルールだ」
「……」
ノアの思考が、一瞬止まる。
「え……?」
「全部……?」
ケンタロウは苦笑いを浮かべ、重く頷いた。
「うん。
だから――俺たちの分は、全部あっちに渡る」
「……」
次の瞬間。
「なにそれ!?」
ノアの声が、闘技場に響いた。
ユウは呆然とした顔のまま、数秒固まり――
そして、吹き出した。
「ははっ……!
マジかよ、それ!」
カズマも肩を揺らしながら笑う。
「いやぁ、ケン。
相変わらず詰めが甘いな」
ノアは二人を睨みつけるが、
当の本人たちはまったく悪びれた様子がない。
「……練習相手って、そういう意味じゃないんだけど」
ノアは小さくため息をついた。
それでも――
口元には、わずかに笑みが浮かんでいた。
「まあいいか。
どうせ、勝つ必要はなかったし」
その言葉に、ユウは苦笑する。
「……ほんと、意味わかんねぇ女だな」
ケンタロウは心の中で確信していた。
(間違いない。
この子は――化ける)




