2:Fクラスの勝者と世界の警報
F-100クラスのトーナメントは、観客が七人しかいない。
それは、別に伝説や英雄を見に来たからではない。
ただ単に、賞金が少なく、賭けも小さく、刺激も小さいからだ。
だからこそ、F-100ランクの少女が、筋骨隆々の男を一撃で倒したとき、観客たちはただ黙り込んだ。
「勝者は……ノア」
審判の声は、信じられないというよりも、淡々としていた。
拍手は起きた。
しかしそれは、歓声というよりも、困惑した拍手に近かった。
ノアは表情を変えず、リングから出て審判の元へ歩いた。
「で……賞金はどこ?」と彼女は言う。
審判は動揺した。
「賞金は事務局で受け取れます。ただし、これはまだ一回戦です。合計賞金を受け取るには、あと四試合勝たないといけません」
ノアは息を吐く。
「ふーん……わかった」
ノアは何も言わずに再びリングへ向かった。
そして、四試合――
四勝。
観客は七人のまま、ただ彼女を見つめ続けた。
F-100クラスの優勝者として、ノアの名前が表示される。
小さな拍手が、少しだけ大きくなる。
そのとき、群衆の中から、スーツ姿の男が現れた。
顔は普通だ。
特別なオーラもない。
ただ――
金を持っている人間の「歩き方」だけはしている。
「私はプロモーターのケンタロウ。
フアンファイトという会社の、アマチュア選手を扱っている」
彼は落ち着いた声で言った。
「君を、チーム・カムイのアマチュアファイターとして契約したい」
ノアは冷たい目で彼を見る。
「プロモーターね。で、私に関係あるの?」
ケンタロウは微笑む。
「私は君の試合を見た。
君の戦い方は……普通じゃない」
ノアは眉を上げる。
「普通じゃない?」
ケンタロウは頷く。
「勝つためだけの動き。
無駄がない。ドラマもない。結果だけがある」
ノアは肩をすくめた。
「それがどうした?」
ケンタロウは真剣な表情になる。
「もし君が加入すれば、私は契約を管理する。
もっと頻繁に戦える。
そして、Fクラスの小さな賞金より、もっと大きな報酬を得られる」
ノアは彼を見る。
「金が問題じゃない」
ケンタロウは頷く。
まるでその答えを予想していたかのように。
「じゃあ、問題は何?」
ノアはリングの空間を見つめる。
「私は、他人の道具になりたくない」
ケンタロウは小さく笑った。
「なら参加しなくていい。
だが、この世界はすぐに変わる。
居場所がなければ、君は置いていかれる」
その瞬間、外の大型スクリーンが点灯し、警報が鳴り響いた。
「緊急警報!複数の都市で魔族の出現を確認!」
観客の七人は慌て始める。
一部は叫び、すぐに逃げ出した。
ノアは画面を見つめる。
ケンタロウは真剣な表情で画面を見ていた。
「見てくれ。
ランクの高いファイターたちが、すぐに現れて魔族を倒している」
ノアは彼の視線に従う。
画面にはいくつかの都市が映っている。
地面から魔族が湧き出てくる。
しかし、短時間でランクの高いファイターたちが到着し、魔族を次々と倒していく。
速い。
効率的。
ドラマはない。
以前、勇者の伝説を信じていた市民たちは、恐怖に震える。
「本当に……起きたのか」
「魔王が戻った!」
「助けて!」
しかし、ノアが気になったのは別のことだった。
現れた魔族は、どれも弱い。
伝説のような強さではない。
まるで、目覚めたばかりのような、未完成の力。
ノアは不思議に思う。
自分の周りにある何かが、魔族の復活に影響しているような気がした。
ケンタロウは画面を見ながら、目を輝かせる。
「ランクの高いファイターたちは、すごい。
もし、あんな強い選手を持てたら……」
彼は言葉を濁した。
「……金持ちになれる」
ノアは首を傾げる。
「つまり、私にそうなってほしいの?」
ケンタロウは頷く。
「そうだ。
君を強くしたい。
そして君の試合を運営したい」
ノアはしばらく沈黙した。
「私はファイターじゃない」と言う。
ケンタロウは肩をすくめる。
「今は違うかもしれない。
だが君には“可能性”がある」
その時、画面に一つの象徴が映る。
ある都市の空に、巨大な紋章が浮かんでいた。
伝説にしか存在しないはずの紋章。
観客は意味を知らない。
しかし、街でニュースを見ている人々は叫び始める。
「見て!あれは魔王の紋章だ!」
「まさか、本当に?」
画面では魔族の数が増え続けている。
そして、ランクの高いファイターたちは、数の多さに少しずつ追い詰められ始める。
ケンタロウはノアを見て言った。
「これは……ただの復活じゃない」
ノアは画面を見つめる。
「もし本当なら、この世界は崩れる」
ケンタロウは息を吐く。
「だからこそ、居場所が必要なんだ」
ノアはケンタロウを見た後、差し出されたカードを見つめる。
だが、その瞬間、警報がさらに大きく鳴り、外の人々が逃げ出す音が大きくなる。
大型スクリーンには、次の文字が表示された。
「魔王の復活:確認」




