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ウィッチランド  作者: 皐紗綾


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8/8

08.魔道具商店

「そろそろ帰らないとだな~」

 

 ある程度街をぶらぶらした後、カミューさんが呟いた。いろんなお店を見て、美味しいものを食べて、だいぶ時間が経ったらしい。

 

「よし、じゃああと一カ所だけ行って、今日は帰ろうか」


「はい……!」


 次はどんな所だろうと考えながらカミューさんについて行くと、着いた先は今までのような露店が並ぶ場所ではなかった。

 お城のようにも見えるその外観は、周りを照らすくらいぴかぴかと光り輝いている。周囲の石造りの街並みからは完全に浮いてしまっていて、色とりどりのライトが少し目に痛いくらいだ。


 思わず、ぽかんと口を開けて見上げてしまう。あまり見たことはないけれど、きっと遊園地ってこんな感じなんだろう。


「えっと……ここは……?」


「魔道具商店だよ~! すごい見た目だよね」


「お、お店なんですか?」


 私の驚いた反応が面白いのか、カミューさんはクスクスと笑いながら教えてくれた。

 その豪華な外観を裏付けるように、お店の前には賑やかな人だかりができている。みんな、楽しそうな顔をして中に入っていく。その大きすぎる熱気と賑わいを見ていると、奴隷上がりの私なんかが近づいていい場所じゃないと、急に足がすくんでしまった。

 

「入るのですか……?」


「そうそう、すっごく楽しいところなんだよ~!」


 遠慮する間もなく、カミューさんに手を引かれて近付いていく。確かにこんな豪華で楽しそうなお店があれば、誰だって入ってみたくなるだろう。ドキドキした気持ちで扉をくぐる。

 魔道具商店とは言われたが、何を売っているのかはまったく想像できなかった。


 人混みをかき分けて入店すれば、それこそ本当にテーマパークなのかと疑うような光景が広がっていた。

 広い店内と外観に負けないくらい豪華な内装。設置されている棚や家具自体はシックな雰囲気を感じさせるが、お客さんたちの賑やかさがそれをかき消している。

 それ以上に驚いたのは、「魔道具」と呼ばれる道具たちの存在だった。

 空っぽのはずのじょうろで植物に水をあげていたり、箒がひとりでに店内を掃除していたり……。火が無いのにお湯を沸かすポットなんてものまである。言葉通り、私が想像していた「魔法」がそこにはあった。


「すごいでしょ~! 一応お店なんだけど、珍しいものもいっぱいあるし、楽しいから半分観光地みたいになってるんだよね~」


「すごいですね……! アレも全部、誰かが魔法で動かしているのですか?」


「ん~、だいたいそんな感じかな~。ほら、あそこで職人さん達が作ってるんだよ。元々ある道具に魔法をかけて、その道具ができる範囲で不思議な力を付与してる……って言ったら分かるかな?」


 カミューさんが指さした先には、職人さん達が真剣な顔で何かを作っているのが見えた。店の奥が工房になっていて、その作業風景を見ることができるらしい。


「何か買うのですか?」


「う~ん……良い物があれば、って思うけど、今日の目的は売り場の方じゃないんだよね~。こっちこっち!」


 カミューさんは慣れた足取りで進んでいく。店の奥まで行くと、扉の前に立っている店員さんに軽く手を挙げた。


「あら、いらっしゃい、カミューちゃん! 今日はお買い物? レイベンさんならいつもの所にいるわよ」


「ありがとう~! あ、この子は私の妹弟子だから安心してね!」


 そう言って私を紹介してくれる。「は、はじめまして……」と頭を下げれば、店員さんはにこりと笑い返してくれた。


「メアリーを紹介したい人がいるんだ~! あ、怪しい人じゃないから安心してね?」


「は、はい!」


 扉を抜けたお店の奥は、さっきまでのテーマパークみたいな騒ぎが嘘みたいに、しん……と落ち着いた場所だった。

 ガヤガヤした声が遠ざかっていくと、なんだかホッとするような、でも少しだけ心細くなるような不思議な静けさがある。

 通路のわきにある大きな棚には、キラキラと光る石や、何に使うのかぜんぜん分からない奇妙な形の道具がぎっしりと並べられていた。

 すれ違う大人の人たちは、難しそうな話をしながら足早に歩いて行く。たまにカミューさんに挨拶をする人がいるあたり、彼女はここでも顔が広いのだろう。

 少しぴりついた空気があって、表のキラキラしたお店とは違う、関係者だけが入れる秘密の場所みたいだった。


 しばらく進んだあと、一つの扉の前でカミューさんは立ち止まる。

 コンコンとノックをして「こんにちは~」と声をかければ、ガチャリと扉が開いた。


「いらっしゃい、カミューちゃん。よく来たね、今日はどうしたのかな?」


 出てきたのは、見上げるほど背の高い大人の男性だった。

 片方の目にだけ、キラリと光る丸い眼鏡をつけている。きちんとした身なりだけれど、服のあちこちが少しよれっとしていて、全体的になんだかくたびれた様子だ。よっぽど忙しいのか、目の下には暗い隈がうっすらと浮かんでいる。

 その人は私たちと目が合った瞬間、「にこり」と柔らかく笑った。

 すごく優しい笑顔。なのに、なんだか何を考えているのか分からなくて、私は思わずカミューさんの背中に隠れてしまった。


「レイベンさん、こんにちは! 今日は新しい子を紹介したくてね~」


 カミューさんが私の方を見る。レイベンさんと呼ばれたその人と目が合ったので、ぺこりとお辞儀をしてみる。


「おや、かわいらしい。カミューちゃんの新しいお弟子さんですか?」


 そう会話をしながら、私達は部屋の中に招待された。立ち話もなんだからと、ソファに座るように促される。


「ちょっとだけ正解だけど、不正解! この子はね、ウェインさんの新しい弟子なんだよ~! だから私の妹弟子!」


「は、はじめまして……メアリーです……」


「なるほど、ウェイン氏が新しい弟子をですか。また可愛らしい子を……」


 じっ……とこっちを見てくる。その視線に緊張して、体が固まってしまう。


「あはは、警戒しないで。取って食べたりなんてしませんよ。はじめまして、レイベンです。魔道具を作って売る仕事をしています。どうぞ、よろしく」


「大丈夫だよ、レイベンさん、いい人だからさ」


「よろしくおねがいします……」


 握手した手は少し温かかった。彼もアビスさん達と同じで、明確な悪意は感じない。きっと優しい人なのだろう。その笑顔がなんだか緊張するのだけれど。


「メアリーに面白いもの見せてあげよう~って思ってお店に来たんだよね。ついでに挨拶しておこうかなって」


「それは嬉しいですね。どうですか? お店は楽しめましたか?」


「は、はい! いろいろ、すごいものがいっぱいあって……びっくりしました……!」


 お金がないから何も買えないけれど、いつか一つくらいほしいなと思った。とくに勝手に掃除してくれる箒は便利そうだ。


「それは良かった。いろんな物がありますから、今度じっくり見ていってください。いろいろ案内しますよ」


「素敵、ですけど……私、お金が……」


「ははは、大丈夫ですよ。見るだけのお客様の方が多いですから。安いものでは無いですしね、即決するようなものでもないです」


 彼は優しく笑って答える。やっぱりあれだけすごいと、かなりの高級品みたいだ。


「カミューちゃん、彼女、魔法の方は?」


「まだこれからだよ~! 一緒に修行してくんだよ! ね、メアリー!」


「が、頑張ります……!」


 この土地の常識が分からないから、私の年齢で魔法が使えないのは違和感なのだろうか……それともよくあることなのだろうか。不思議に思われないように振る舞わないといけないなと、当たり障りの無い返事をする。


「それならば、お近づきの印に一つ」


 レイベンさんはそう呟くと立ち上がり、部屋の奥の棚をごそごそと探し始めた。そして、厳重に鍵のかけられた細長い木箱を持ってきた。


「これを貴方に」


 カチャリ、と重々しい音を立てて箱が開かれる。

 中に入っていたのは、片手で持てるくらいのサイズの、不思議な形をした短い棒だった。カクカクと絡み合うような複雑な木の持ち手と、その先端には黒く光る綺麗な石がはまっている。


「これは……?」


「初心者用の杖です。もしかして、もうウェイン氏からもらっていましたか?」


「まだです……! えと、でも代金って……その……」


 お金がないと言ったばかりだ。こんな高そうな物、買えるわけがないと首を振る。


「代金はいりませんよ。これは僕からのプレゼントです。……といっても、返すに近いかもしれないですけどね」


「……?」


「これはウェイン氏が、元々使っていた杖なんですよ。すごく良いものですから、ここで眠っているよりお弟子さんが使う方がいいでしょう」


 そう言って、レイベンさんは手袋をはめた手で杖を取り出し、私に差し出してきた。


「アビスさんの……」


 そっと手に取る。

 光を反射して綺麗な輝きを放っているけれど、どこか少し禍々しい雰囲気も感じる、不思議な杖だった。


「あ、あの、コレを持ったら爆発したりとか……!」


 ふと、アビスさんに言われた「世界を壊す力」についての話を思い出す。私はまだ魔法について何もしらない。杖を握った途端に力が暴走なんてしたら、と一瞬不安に思ってしまう。


「あはは、安心してください。メアリーさんが爆発させたいって思わなければ大丈夫ですよ。それに杖は爆発するものじゃないですからね」


「そうそう、魔力を通さないと何も出来ないから、大事に持ってたら大丈夫だよ~!」


「だ、大事にします……!」


 ぎゅっと抱きしめるように持つ。

 まだ何も分からないし知らないけれど、魔法使いに一歩近付いた、そんな気がした。


「メアリー良かったね~! ウェインさんのお下がりなんてめったにもらえないよ~!」


 カミューさんが無邪気に拍手をしている。


「ありがとうございます、レイベンさん……!」


 私は大事に杖を抱えたまま、深々とお辞儀をした。

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