クリスマスとバレンタイン、ホワイトデーをごちゃ混ぜにした、愛を伝えあう日を作りました
レイラは12歳の時に、前世が日本人であった事を思い出した。
何の予兆もなしに突然日本人だった16歳までの記憶がもたらされ、その日は一日ベッドで呆然と過ごした。知恵熱も出たようで、風邪と診断されてメイドに看病された。
レイラは侯爵令嬢だった。日本人だった時によく見ていた異世界アニメで多くあったように、貴族が国を治める世界だったが、魔法はなかった。中世のような雰囲気だが、科学は発達していた。
前世で憧れたお姫様のような生活をしていたので、それに関してはむしろラッキーという感覚だったが、思春期のレイラにとって、絶望的な事があった。
貴族はほぼ政略結婚であった事だ。
前世は16歳までしか生きなかったようで、異性と付き合った事はなかったが、好きな人はいた。相手とはいい雰囲気だったので、告白しようか迷っていたところだった。片思いの楽しさを味わいながら、両思いになった後のデートをとても楽しみにしていた記憶があった。
だが、この国では恋愛結婚はほぼない。貴族は殆ど政略結婚であり、平民も仲人による紹介で結婚するようだ。女性は慎ましくある事が前提で異性に積極的にアプローチする事はありえない事だった。昔の日本のようだが、レイラは昔の日本を知らないので、女性が慎ましくある美徳とは何ぞや、と反発しかない。
令息や平民の男性の中には、意中の女性に婚約や結婚の申し込みをする事があるが、家の利益優先となるため感情が優先される事はなく、前世でいうところの草食系ばかりだ。
学校がないため、異性とはお茶会や夜会で会う程度だが、慎ましやかが美徳とされるため、異性とは挨拶程度しかしない。仲良くなる機会がないし、政略結婚が当然なので、結婚後に離婚したり浮気したりもあまりなかったが、出生率は低かった。
そりゃ、そうだ。好きな人じゃなきゃ、肌を重ねたくないだろうし、もしかしたら生理的に嫌という場合もあるかもしれないし。
レイラはこの国の恋愛観にとてもモヤついた。自身も政略結婚で好きでもない人と結婚するのはとても嫌だった。
なので、決めたのだ。この国を恋愛至上に変えてやろうと。
さらに、この国の残念な事の一つにイベントがない事もあった。誕生日は祝うが、それだけなのだ。12月にイベントがない事が一番がっかりしたので、24日を愛溢れる日にする事に決めた。クリスマスとバレンタイン、ホワイトデーを混ぜたような日にしてしまおうと。
幸い、レイラの侯爵家は商会を持っておりとても裕福だった。しかし、まだレイラは12歳で商会を動かせる力はなかった。
そこで、レイラを孫のように可愛がり、愛情を持って甘やかしつつ、きちんと教育を施してくれる、信頼のおける執事のオニキスを味方につける事にした。
「オニキス、あのね。昨日夢を見たの。たぶん、どこかの国の風習を本で読んだからなのかもしれないけど、夢の中の国では男女ともに、好意を持った人にその思いを打ち明けたり、プレゼントをしながら愛を囁いたりしてて、皆とっても幸せそうだったの。
大好きな人と家庭を築くから、子沢山でとても幸せな家庭を築いている人が多かったわ。その国では大体15歳くらいから異性の方とお付き合いをしてそのまま結婚したり、合わなかったらお別れして新しい方とパートナーになったりしていたわ。気の合う方と結婚する事で出生率も高くて、国がとても発展していたの。プレゼントを選ぶのもとても楽しそうで、お顔がみんなとても輝いていたわ。
オニキス、私はその国に憧れたの。私の手で、その国の国民のように、皆んなを笑顔にしたいと思ったの。
だから、そのためのプランをいくつか考えたのっ!聞いてくれない?」
オニキスは私にとても甘い。教育や躾は施されたが、いつも私の言葉に耳を傾けてくれたので、今回も否定する事なく聞いてくれるだろうと、一気に捲し立てた。
「それはそれは、素敵な夢をみたのですね。わたくしもレイラ様の夢を可能なら共に見たかったです。で、どのようなプランなのですか?」
「あのねっ!12月のある日を愛を伝え合う日にしたいの!その日はね、男女関係なく意中の人にプレゼントを渡すの!貴金属がいいわっ。そして、その愛を受け入れる場合は貴金属をお返しして、お断りする場合はクッキーやチョコレートといったお菓子を渡すの。これで相手が受け入れてくれたかお断りをされたのか判断できるわ。
家族の場合は、お互いに好きな物をプレゼントし合うの。普段の感謝の気持ちと愛を伝え合うのよ。
愛を伝え合う事で、体から幸せホルモンが出るらしいの。そのホルモンは体を健康にして寿命を伸ばすようだから、愛を伝える事の大切さを前面に押し出して、12月24日を愛を伝え合う日としたいの!きっと、幸せホルモンのメリットを大々的に広めれば定着すると思うの!
だから、まずは貴金属やお菓子を皆んなが買えるように、今ある商会を大きくしましょう!
量販店という建物を造って、多くの平民がそこで商品を買えるようにしましょう!貴族のお屋敷には商会の従業員に貴金属とお菓子を持たせて、愛を伝え合う日が流行っている事や、幸せホルモンが寿命を伸ばしたり若返えさせるということを伝えて、24日にプレゼントを渡す事を奨励すれば、きっと貴族はみんな商品を買うわっ。だって、貴族夫人は若返りという言葉に弱いし、流行りにいかに早く乗るかを競う貴族が多いから。
あとはね、化粧の仕方や装いの組み合わせも夢でみたの。まず私が女性を可愛くする方法をメイドに教えるわ。そのメイド達を商会の美容部員として量販店でお客様に化粧をしたり装いのアドバイスをするのよ。可愛くなった女性達は、異性に愛を伝える事に自信を持てるようになるはずよ!男性ももちろん同じ。装いや髪型でいくらでも見た目が良くなるという事を夢で教えてもらったわ。見た目に自信がつくと、異性に愛を伝える事に躊躇いが少なくなるらしいのっ!だから、きっと素敵になった男女はプレゼントを購入して愛を伝えるようになるわっ!
愛溢れる国を作っていきたいのっ!近い将来、きっとそうなるわっ!
だから、オニキス!協力してっ!!」
「ふむ……幸せホルモンですか…… 確かに人の体は多くのホルモンがあると聞きます。幸せホルモンなるものがあるとしたら、体に良い事は間違いないでしょう。人が健康になったり寿命が伸びるのは皆大歓迎でしょうから、そこを打ち出してみると案外うまくいくかもしれません。まあ、資金は十分にありますから。旦那様から許可を得れれば、そのプランを進める事は可能です。一緒に許可を得に行きましょうか?」
「ありがとう!オニキスっ!」
父も私に甘いので、好きなようにやってみなさいとすんなりと許可を得た。豊かな侯爵家に産まれた事が功を成したようだ。
それまでの化粧はとにかく派手な顔にするというものだったし、ビューラーもなかった。職人にすぐにビューラーを作ってもらった。出来上がったビューラーを使って、集めたメイド達に順に化粧を施した。ビューラーを使ってまつ毛を立ち上げ、顔立ちを活かして可愛くなるように、アイラインの引き方、アイシャドウの乗せ方、チークやハイライトの入れ方など、個人に合った化粧の仕方やヘアアレンジなど、細部に渡ってレクチャーした。前世では中学生から化粧や髪型を研究していたので、その知識は潤沢だったのだ。
実際にとても可愛くなったメイド達は、皆顔を輝かせてメイクの技術をするすると身につけていった。上手くできるようになったメイド達は、量販店の美容部員として配置し、お客様に化粧を実際に施してアドバイスするようにした。
工房に出向いて化粧品の開発にも携わり、グロスやコテなども作った。
量販店に行くと可愛くなれるとの噂が伝わり、街には可愛くなって自信溢れる身なりをした女性が増えた。
男性も量販店にある整髪店で髪を切ったり、服を揃えると見た目が良くなるという噂が広まり、量販店は益々栄えた。
拡充した量販店に貴金属コーナーとお菓子コーナーを広く構え、当初の目論見であった愛を伝え合う日を広告を使って存分にアピールした。広告で愛を伝え合う事で得られる幸せホルモンによる効果を大々的に打ち出すとともに、量販店の店員には幸せホルモンがいかに身体にメリットかあるのかを口々に上らせた。と同時に、気性が合わない人と長くいたり、結婚してから不和が生じた場合は、ストレスホルモンが出て老化が進んだり病気になったりしやすいとの噂も流しておいた。これで少しは不貞の防止になるだろう。
人は、可愛い子や格好いい人がいればつい真似したくなるようで、街中にはおしゃれで可愛い子や格好よい男の人が増えていった。街を歩く人は、皆表情が明るく、生き生きしている。
そして、少しずつ告白する人が増えていき、四年後には12月24日は男女関係なく愛を伝える日であるとともに、家族がプレゼントをしあう日であるという事が確立していた。
16歳となったレイラは執務室で書類を捌いていた。
その傍にはオニキスの孫のカイトが立ち、書類を纏めていた。
カイトはレイラが商会長となった二年前に副会長となり、レイラの補佐をずっと務めている。レイラの3歳上だ。
「ねぇ、もうすぐ24日よね。ずーっと働いてきたけど、その日は私、お休みにするから。カイトも休んで。緊急時やトラブル時の対応はマニュアル化したから、上の者が休んでも大丈夫なはずよ。
そろそろ、私達も月に一度は休んでもいいんじゃないかしら?」
「確かに。毎日働いて来ましたからね。それはそれで充実していましたが、お休みを取るのも人生には必要ですよね。休みましょう、遠慮なく私も休ませてもらいます」
「うん。で、カイトは何かするの?」
「はい。今する事を決めました。レイラ様は予定はおありですか?」
「とりあえず家族にプレゼントを渡すわ。プレゼントを選ぶ時間もないから、当日に選んで購入して渡すわ」
「きっと、皆様喜びますね。では、荷物持ちとなりすのでご同行させてください」
「いいの?予定決めたんじゃなかった?」
「大丈夫です。予定は午後にしますから」
「じゃあ、お願いするわ。朝食を摂ったら迎えに来て」
「かしこまりました」
24日、朝早くに起きてメイドにマッサージをしてもらう。自分で丹念にメイクを施し、髪も巻いた。服装も白を基調にしてピンクを差し色にした可愛らしいものを選んだ。前世でのよくあるデートコーディネイトだ。
鏡を覗き込んで、「よし、完璧美少女ね」と微笑む。街には可愛い令嬢や女の子が溢れたが、レイラは仕事が忙しくて全く自分に手入れが出来なかった。毎日基本ノーメイクで髪を纏め、服装は商会長として大人っぽくみえるよう黒や紺といった落ち着いた色合いの飾りのないシックなものを選んで着ていた。カイトの前で可愛らしく着飾るのは初めてだ。なので、少し緊張する。
迎えに来たカイトは、明るい色合いのスラックスとシャツと短めジャケットでスタイルの良さを際立たせた上、髪も横分けにしてラフにセットし、目を引く格好良さだった。
「お迎えありがとう。今日のカイトはとっても格好いいわ。並んで歩くと嫉妬されそう」
「お褒めいただき光栄です。ですが、レイラ様が天使のような可愛らしさなので、きっと私の方が街中の男性から嫉妬されますよ。いつも素敵な女性ですが、今日のレイラ様は誰よりも素敵で可愛いです」
と満面の笑みで返され、顔が赤くなった。
(よかった。不安だったけど、これなら大丈夫かも)
レイラは、カイトに告白する予定だった。商会の商品の高級腕時計を鞄に入れてある。家族のプレゼントを選んだ後に、どこかでお茶をして渡す予定だ。
ずっと、一緒に働いてきて素の自分も曝け出してきた。子供っぽい愚痴も年上らしく否定せず聞いてくれて、的確なアドバイスをくれるカイトに自然と恋をしていた。
カイトは見た目がとてもいいのでモテているのは知っていたが、仕事が多忙で誰ともお付き合いしていないのも知っていた。だけど、プライベートについて聞いた事がないので、誰か好きな人がいるかもしれない、告白してもフラれるかも、とずっと恋心を隠してきた。だけど、ずっと隣にいてほしいと思えるくらいの愛情が芽生えてしまったので、告白をする覚悟を決めたのだ。
朝の反応が想像以上だったので、これなら上手くいくかもと気分を上げ、デートを楽しむことにした。
家族へのプレゼントをカイトに聞きながら選び、ランチを軽く摂った。いつも仕事の合間に執務室で一緒に食事を摂るが、オシャレな食堂で食べるランチは楽しくていつもより美味しく感じた。
天気が良かったので、庭園を散策してお茶をするカフェに入った。
カフェでお茶とケーキをいただき、覚悟を決める。
横に置いた鞄を膝上に移動したその時、カイトがジャケットのポケットから小さな箱を取り出してテーブルに置いた。
「レイラ様、好きです。受け取ってもらえますか?」
告白を受け止めてもらえるかもしれないとは思っていたが、告白されるとは思ってなかったので、とても驚いた。だけど、すぐ嬉しい気持ちで満たされて満面の笑顔で頷いた。
「もちろん!私からのプレゼントも受け取ってくれる?」
と鞄から箱を取り出して渡す。
お互いに微笑み合い、箱を開けた。
レイラが受け取った箱にはカイトの瞳の色の宝石がついた指輪が入っていた。
「気に入っていただけましたか?私はとても気に入りました。毎日つけますね。ありがとうございます。
これから先もお側でお支えしますので、私の妻となっていただけますか?」
「とっても嬉しいわ!もちろん気に入ったしすぐにつけたい!私を妻にしてくださいっ」
立ち上がって側に行き抱きついた。
笑いながら抱きしめ返してくれる。そして、箱を手繰り寄せて指に指輪をはめてくれた。
「これから結婚の準備でさらに忙しくなりますが、大丈夫ですよね?」
「ええ、もちろん大丈夫よ!今まで以上に働くし、素敵な結婚式をあげましょう!
だけどっ!その前に!敬語は今日から禁止よ。名前もそのまま呼んでっ!」
「わかったよ、レイラ。幸せに暮らして幸せホルモンいっぱい出そうな」
と笑いながら頬に口付けをしてくる。
さすが、年上だわ、手が早そうねと思うものの、それはそれで大歓迎なのである。
だって、好きな人と肌を重ねる事は幸せホルモン大量に出す事だものね!と前世の知識を思い出しつつ、頬への口付けをお返ししたのだった。
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