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あくまたたき  作者: 永山てりあ
エピローグ

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あくまたたき

 夏休み初日。

 ザガンの斧によってぱっつんにされた前髪も復活して、完全体姫野小乃葉に戻った私は、はーちゃんと山田ちゃんと一緒に、ショッピングモールへと遊びに来ていた。


 私の家の最寄り駅から五駅隣の駅を降りてすぐのところにあるここは、たくさんのお店はもちろん映画館や、まるまる電気屋さんの入った建物が隣接している、とっても大きなショッピングモールだった。


 そんな大きなショッピングモールだから、当然フードコートもとっても大きい。たとえば麺類なら、うどんに蕎麦、ラーメンと御三家そろっている。

 どれにしようか悩むなぁ。ポケットなモンスターのゲームなら見た目のかわいさで選ぶんだけど。


 フードコートは私たちと同じように夏休みを利用して遊びにきた学生であふれかえっていた。そのため熾烈な席取りゲームが行われていたが、私たちはテーブル席を一つ勝ち取ることに成功している。


「とりあえず、私は草タイプの蕎麦にしてみた」


 山田ちゃんに死守してもらっていたテーブルへと戻ってきた私は、鴨蕎麦と肉うどんの乗ったお盆を置いてから、彼女の隣に座る。

 スマホを見ていた山田ちゃんは、私の声に気づき顔をあげた。


「草タイプ?」

「そう。そしてこちら、ご注文の水タイプです」


 お盆から肉うどんを取り、山田ちゃんの前に置く。

 それにしても山田ちゃんって見た目は委員長って感じで大人しそうだけど、食べ物の好みは肉食なんだよね。前世はティラノサウルスだったのかも。


「タイプが何の話なのか、まったく分からないよ……」


 転生したら可愛い委員長だったティラノサウルスが首をかしげた。


「いつかわかる日がくるといいね」

「そうだね。頑張る」


 両手をぎゅっと握りしめる山田ちゃん。


「努力がもったいないから、やめた方がいいよ。私は六年使ったけど、小乃葉を理解するのは無理だと諦めたよ」


 はーちゃんが、お盆にパスタを乗せてやってきた。って、パスタだとぉ!?


「第四の麺類がっ! どうしよう、エスパータイプにでもしておく?」

「どうもせんわ。それより山田さんが見てる動画に映っているのって、この前、私たちが行った山だよね?」


 なんですと?

 画面がついたままテーブルに置かれていた山田ちゃんのスマホを覗き見る。ほんとだ。この前、校外学習で登った山だ。

 そして、三体の悪魔と激闘を繰り広げた山。


「いや、アレは地獄のような一日だったね。私なんて死んだから」

「今、目の前にいる小乃葉はなんなんだよ。化けて出てきてんのか?」


 思わず口にしたけど、私が死んだことをこの場で知っているのは私だけだった。


「幽霊じゃないよ。死んだけど、コンティニューできたんだ」

「ゲーム感覚で復活するな。それで山田さんは、なんで山の動画みてたの?」


 はーちゃんに聞かれた山田ちゃんは、とつぜん目を輝かせて、自分のスマホを突き出してくる。


「今ね、この山、凄いことになっているんだよ!」


 そうなのか。でも山田ちゃん、その山、ちょっと前も悪魔三体に神使三人と凄いことになっていたよ。


「二人とも、私がした妖怪の話、覚えている?」


 あぁ、なんだっけ。そんな話、聞いた気がするけど……。


「座敷童だっけ?」

「天狗だ、天狗。だいたい山にいたら、山童になっちゃうだろ」


 はーちゃんにツッコまれる。そんな名前の動物いたな。


「はーちゃん。背中に針がいっぱいあるやつ」

「それはヤマアラシ」

「「いえーい」」


 はーちゃんと二人でハイタッチ。


「二人ともぉ! 漫才してないで、動画再生してみてよぉ!」


 山田ちゃんが急かすようにスマホを押しつけてくる。


「はいはい。ぽちっと」


 スマホを受け取り、動画を再生。


 暗い雰囲気の室内。医者らしき男の人と、頬がこけた患者らしき女の人がテーブルを挟んで会話をしている。最初のうちは、普通に行われていた会話。徐々に女の人の様子がおかしくなっていく。早口になり、語気が強くなっていき、そして――。

 発狂し、血しぶきをあげる女の人!


「ぎゃぁー!」「おわぁ!」


 驚く私とはーちゃん。


「びっくりしたぁ。ありがと」


 スマホを山田ちゃんへと返す。


「それ動画が始まる前の広告だよぉ! 今のはホラー映画の宣伝! ちゃんと動画本編を見てよぉ!」

「あっ、そうなのか。見たことない奴だから、広告って気づかなかった」

「小乃葉の広告、ゲームばっかりだもんな」

「はーちゃんのは音楽とかコスメとか、変なのばっかだよね」

「私が普通なんだよ」

「二人とも、お願いだから動画見てぇ!」


 そうだった。広告が終わった後、動画は勝手に再生されていたので途中まで進んでしまっていた。

 内容は地域のニュースチャンネルらしくて、レポーターの男性が、私も歩いた山道を進みながら何かをしゃべっているが、音量が小さくて聞き取れなかった。

 きっと周りのお客さんに迷惑をかけないように、山田ちゃんは音量を最小にして見てたんだな。


 音の代わりに、動画下部に表示された字幕を見て、内容を理解していく。

 レポーターはなんか偉そうな専門家みたいなおじさんと一緒に山道から外れ、森の中へと続く道を進んでいった


「あれ? こんな道あったか?」

「私たちが登ったあとに作られたんだよ」


 はーちゃんの問いに、山田ちゃんが答える。


 レポーターが木々の間を歩いて行くと、やがて森が開けて広場が現れた。

 カメラが広場の中心へとズームしていく。


「見て、凄いでしょ! 突然、天狗の像があらわれたんだって!」


 山田ちゃんの言葉どおり、そこには背中に羽の生えた人の像が立っていた。


「私たちが行った数日後に見つかったんだってぇ! もしかしたら、私たちが登っていた時にも会ったのかなぁ? 見たかったなぁ」


 残念そうにする山田ちゃん。

 動画では専門家っぽい人が、民俗学の佐藤教授と紹介され、山の伝承について話しはじめていた。『この山には「神の衣を纏い翼を得し者、魔を討ちて、この地に降り立つであろう」という伝承があり、天狗が――』。


 お爺ちゃん先生が私に話した伝承と、だいぶ内容が違うんだけど。あのポリエステルどうのってやつはなんだったの。


「現代に蘇る妖怪伝説! ロマンだよねぇ」


 うっとりとした口調でそういう山田ちゃんに、はーちゃんが「ロマンかぁ? どう考えても悪戯でしょ」とツッコむ。


「重機の入れない場所にどうやってこんな重そうな石像を運んだんだろな?」

「神の奇跡だよぉ!」

「おい、小乃葉。なんか山田さんの眼が怖いんだけど……」


 どこから石像が来たのか。

 答えはたぶん、人力でも神でもなく、悪魔のせいかな。デカラビアが〈真化〉したことによって起こった異変じゃないかな。そう思った。


 それにしてもこの石像が着ている服、それに背中の翼って鳩遠(くおん)ちゃんに似ているような……この天狗って鳩遠ちゃんがモデルなのかな?


「……この石像さぁ」


 はーちゃんが、アップになった石像を見ながら言う。


「顔の造りが雑だから性別とか年齢がわからないけど、髪型はなんかちょっと前の小乃葉に似てない? ほら、登山中なのに突然自分の前髪をカットするという謎行動をした時の……」


 謎行動じゃなくて、ザガンにやられたんだけど……でも、そう伝えるわけにもいかず二人には自分で切ったと説明した。

 おかげでまた少し、常識人の私のイメージが非常識人へと傾いてしまった。


「ほんとだぁ、あの時の姫野ちゃんに似ているねぇ」


 もしかして、この石像のモデルって鳩遠ちゃんじゃなくて……私なのかな?

 そんな私がモデルかもしれない石像を、地元の人達が観光名物にしようとしているという話で、動画は終わっていた。




 食事を終え、食器をお店に返してテーブルへと戻った私の身に、信じがたい異変が起こった。その事実を二人に伝える。


「はーちゃん、山田ちゃん。私、トイレ。……あっ、自己紹介じゃないから勘違いしないでね。トイレに行ってくるねってことね」

「『私、トイレ』って名乗る奴は、未来で作られたAI搭載トイレか、現代の変態だけだろ。さっさと行ってこい」

「ほーい」


 お客さんで賑わうフードコート内を見渡し、天井からぶら下がるトイレの案内板を見つけたところで――ふと思いついて、二人の方を見る。


「二人はトイレに行かなくて平気? 今日はビッグバン起こらないから、一緒に来ても大丈夫だよ?」

「急に何の話っ!?」


 驚く山田ちゃん。

 対照的にはーちゃんは、めずらしく可愛く笑った。


「小乃葉、かわいい女子はトイレに行かないんだぞっ」

「なんだ、それ。トイレに行くことで可愛さが減るなんてルール聞いたことないぞ。そんなルール、私がぶち壊してやる。逆にトイレに行くことによって可愛さ増やしてやるからな」

「それは楽しみだな。どうやって可愛さを増やすんだ?」


 うーんと……。


「可愛いネコちゃんみたいに香箱座りで、便座の上に座るよ。どう、可愛いでしょ? 私の可愛さによって、トイレが猫カフェに早変わり。想像してみてよ」

「便座の上に香箱座りの小乃葉ねぇ……想像したら、砂漠とピラミッドが見えてきたな」

「猫カフェじゃなくてエジプトだろ、そこ。香箱座りの私が、スフィンクスに見えてるじゃねーか」


 なんてツッコんでる場合じゃないな。尿意は、どんどん増してきていた。


「限界がくる前に、トイレ行ってくる」

「小乃葉の可愛さがもってるうちに、行ってきな」

「可愛さはもつよ。もたないのは私の膀胱なんだよ」


 二人に見送られながらフードコートを出て、トイレへ。


 トイレの中は、一つだけドアが閉まって使用中だったけど、残りは開いていた。セーフ。

 開いている個室に入って、香箱座りをせずにトイレをすませる。


 手を洗いながら、目の前の鏡で一応トイレに入ったことで可愛さが減ってないかを確認。よし、可愛い。


 そうしてトイレから出ようとしたところで――。


「わっ、ベルゼブブ! やだ」


 女の人の驚いた声。私が入った時から閉じたままだった個室のドアが勢いよく開き、女の人が飛びだす。


 ……今、ベルゼブブって言ったよね。その名前は私でも知っている。有名な悪魔の名前。


 逃げるように女の人がトイレから出ていったため、この場にいる人間は私一人に。


 不吉な予感を抱きながら、私は女の人が入っていた個室をにらみつける。利用者のいなくなった個室から、小さな虫があらわれた。

 ゆっくりと飛ぶその虫は、一度天井の照明近くをぐるぐると飛び回ってから、そのまま私の目の間に降りてきた。

 ハエだ。


「よォ、お前が噂の人間だな?」


 ハエがしゃべった。しゃべったということは――このハエには悪魔が憑いている。

 悪魔ベルゼブブが、ハエを〈器〉にしてあらわれたんだ。


「そういうアンタは、ベルゼブブだよね?」

「そのとおり、オレ様はベルゼブブだが……まぁ、オレ様のことはいいじゃねぇか。それよりよぉ、人間やめかけのお前に――」

「ちょっとタイム」


 手のひらを見せ、悪魔の言葉を止める。


「あぁ? なんだよ?」

「助っ人呼ぶから、ちょっとまってて」


 あらわれた新たな悪魔ベルゼブブを倒すため、バッグからスマホを取りだし〈神使召喚〉をする。

 こいつと戦うには、誰の手を借りるといいかな?

 白狼くん、聖牛さん、鳩遠ちゃん。三人の顔を思い浮かべる。

 私は、もぐらたたきのもぐらみたいに倒しても倒してもあらわれる悪魔をふたたび倒すため、一人の神使を呼びだした。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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