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あくまたたき  作者: 永山てりあ
3 軍鳩少女と白銀の凶星

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14 HP回復中

 神使と悪魔の戦いがはじまったけど、深手を負った私にできることはあまりなかった。

 一つはこの戦いの行く末を見守ること。そしてもう一つは――。


「ひーひーふー。ひーひーふー」


 怪我を回復すること。

 そのために山頂に備え付けられた木製のベンチで鳩遠ちゃんに膝枕してもらいながら、神様に教わった回復術を行っていた


「あーなんか傷が癒えてきた気がするよぉ。回復術に鳩遠ちゃんの膝枕が合わさったおかげで、折れた骨がバキバキ音を鳴らしながらくっついていってる気がするよぉ」

「それが事実なら人間やめているのです。……でも神衣には治癒能力もあるので、傷は徐々に癒えていっていると思うのです」


 確かに最初の頃よりは痛みが弱くなってきてる。私の体と脳がこのバトル展開に適応した結果、痛みを克服しはじめたのかと思っていたんだけど、違ったか。


「でもまだ無理はしない方がいいです」


 鳩遠ちゃんに髪を優しく撫でられる。わー……戦いで荒んだ心が癒されるよぉ。あったかい気持ちになる。そんな心がポカポカした私をさらに温めようとしたのか、ごおっと音を立て火球が足元を通過した。


「って、熱すぎるわっ!」


 温まるどころか焼けるわ。跳ね起きて、足が無事か確認する。よかった、平気だ。


「お姉ちゃん、大丈夫です!? ――こらぁ、お犬共っ! もうちょっと気をつけて戦うのです!」


 白狼くんは「無茶言うなっ!」と叫びつつ、ケルベロスの三つ頭による噛みつき攻撃を踊るように避けて、反撃に頭の一つに回し蹴りを浴びせた。


「いいの、鳩遠ちゃん。こんなところで休んでる私が悪いんだから。ベンチがあるからここで休んでたけど、戦いに巻き込まれないようにもうちょっと遠くに移動しよっか?」


 ベンチから立ち上がる。いたた。自分の力だけで立とうとすると脇腹が痛むので、ロボットみたいなぎこちない動きになってしまう。小乃葉ロボットは出撃前から大破状態。


「お姉ちゃん、掴まってなのです」

「アリガトウ、ハカセ」

「なぜ博士なのです?」


 自分より小さな鳩遠ちゃんの肩を借りながら、山頂のすみっこ目指してよろよろと歩きはじめる。

 ごおっ。

 そんな私たちの行く手を遮るように、斧が風を纏いながら通過した。体が痛むせいで猫背の姿勢だった私の前髪を、斧がかすっていく。

 ちりっという音とともに、私の頭から数本の髪の毛が地面へ。鳩遠ちゃんは激しい戦いを繰り広げているザガンと聖牛さんを睨む。


「こらー! お姉ちゃんの髪が無くなって坊主になったらどう責任とるつもりです! 牛どもはもうちょい気をつけて戦うです!」

「いや当たってたら髪の毛どころか顔がなくなりそうだったんだけど。坊主どころか、のっぺらぼうだけど。私の顔、ちゃんとついてるよね?」


 鳩遠ちゃんに顔を向ける。

 すると手足を飾りと表現していた鳩遠ちゃんが、私の顔を見て青ざめた。えっ、何その反応? 怖い。


「もしかして私、顔のパーツなにか失くした? どれ? 鼻? 目? あっ、口かっ!? 口が持ってかれたのかぁ!」

「お姉ちゃんの口は今も無事に働いているのです。……その、ちょっと髪がばっさりと持ってかれた……です」

「髪? なら目鼻と違って生えてくるから、いいや」


 よかった、顔は無事だった。でも、相変わらず山頂中を火球や斧が飛びかっていて、いつ怪我してもおかしくない状況。

 悪魔と神使の激しい戦いが二組分も行われているんだから、仕方ないけど。その激闘を、鳩遠ちゃんに支えられて、よろよろと移動しながら見守る。


 ケルベロスの三つの頭がいくつも火球を放っている。目まぐるしく動く白狼くんに避けられた火球は、代わりにザガンの背中に直撃する。やったぜ、ざまぁみろ。


「ふぁーー!」

「それは当たる前に言うやつなのです」


 思わずゴルフみたいに叫んだけど、鳩遠ちゃんにツッコまれた。そうなのか。

 背中からぷすぷすと煙をあげるザガンが、ケルベロスを睨みつける。


「どこに向けて撃っている、愚か者めっ!」


 ザガンは聖牛さんに避けられた斧を、そのままケルベロス目掛けて投擲する。


「うおおおん!」


 飛び退いて斧を避けたケルベロスが、ザガンに向かって吠える。斧は地面に突き刺さり、周囲に土をまき散らした。


「あらそえ~。もっとあらそえなのです~」


 私の隣で、平和の象徴であるハトの鳩遠ちゃんが、とても悪い顔で笑っていた。

 それにしても悪魔たちって、戦闘中に平気で仲間割れするぐらい仲悪いのかな。白狼くんも「悪魔が仲良しなんてめずらしい」みたいなこと言っていたし。


「ねぇ、鳩遠ちゃん。悪魔って仲悪いの?」

「悪いのです。特にザガンやケルベロスのような力の強い悪魔は、どいつも自分が一番と思っていて他者を見下しているような奴らなのです。だから普段は協力なんてしないのですが……」

「今は手を取り合うことにしたんだね。私はそのままの君たちが好きだったのに。けれども、私のために手を取り合うと決めた二人に、今、亀裂が入ろうとしている。それを私はただ黙って嬉しそうに眺めるの」

「なんかとんでもねぇ悪女の歌みたいになっているのです」


 やっぱり悪魔って仲悪いのか。うーん……。


「ねぇ、悪魔の不仲を利用できないかな? さっきみたいに悪魔に同士討ちさせて、さらにそこを白狼くんと聖牛さんが協力して疑似的に三対一の状態に持ちこんだりとか」

「確かに悪魔は仲が悪いですけど……」


 さすがにこの作戦は安直すぎるかな? はっきりしない言葉尻の鳩遠ちゃんが戦場の方向を指したため、作戦は置いといて私も戦いの続きを見る。


 ザガンが横向きに薙ぎ払うように振った斧を、聖牛さんが二本の大太刀で受け止める。刀で受け止めたためダメージはなかったが、聖牛さんは力負けして吹っ飛ばされてしまう。しかし、すぐに空中で体を回転させ態勢を立て直す。

 けど着地点にはケルベロスと戦闘中の白狼くんがいた。


「「あっ」」


 二人が声を出すと同時に、衝突する。絡まるように地面の上をごろごろと数回転がったけど、すぐに二人は離れて立ち上がる。

 白狼くんが聖牛さんを睨む。


「おい聖牛。一度負けた相手で荷が重いっていうなら変わってやろうか? なんならボクが二匹とも相手してやってもいいぞ」

大海撈針(たいかいろうしん)。一匹の犬相手にすら苦戦している白狼には無理ではないか?」

「なんだとっ?」

「やるか?」


 今にも掴みあって殴り合いをはじめそうなほどの剣幕でいがみ合う聖牛さんと白狼くんだたけど、そこにケルベロスの火球が飛んできたため、両者、ばらばらの方向へと飛び退き、喧嘩にならずにすんだ。

 

「あらそえ~。もっとあらそえなのです~」


 二人を見ている鳩遠ちゃんが、悪そうな笑みをうかべる。


「いや鳩遠ちゃん、アレ味方だからね? ……あの二人って仲悪いの?」

「あの二人は神使の中でも、特に神様を信奉している神使なのです。なので、どっちが神様からの評価が高いかということで、よくぶつかりあっているのです。まぁ、聖牛の方が一方的に絡んでいるような気もするのですが――だから二人共『神様の右腕』なんて名乗っていたりしているのです」

「あっ、言ってた、言ってたぁ! 確かに白狼くんと聖牛さん、どちらも神様の右腕だって名乗ってた。左腕が多い方がお茶碗いっぱい持てて、食べる時便利そうなのにね」

「右腕でお茶碗を持てばいいだけなのです。……それにしても本当、プライドばっかり高くて困った奴らなのです」


 鳩遠ちゃんは呆れたように言った。


「そういえば鳩遠ちゃんは初めて会った時、神様の右腕って名乗らなかったよね」


 私の言葉に鳩遠ちゃんは胸を張る。


「鳩遠は右翼なのです。腕なんて飛ぶのになんも役に立たない不便な部位とは違う、もっと優秀な部位なのです」

「腕から翼になっただけなのに、途端になんか触れづらい響きになったね。詳しくは知らないけど」


 しかし、こっちも仲が悪いんじゃ、相手の不仲を利用するのは無理かぁ

 どうしようと悩んでいると、ガチャンという機械音が聞こえた。


「鳩遠ちゃん、何してんの?」

 

 鳩遠ちゃんがガトリング砲を構えた音だった。砲身の先では二人の神使と二体の悪魔が戦っている。


「白狼と聖牛にまかせてたら、いつまで経っても終わらないのです。鬼に金棒、鳩に豆鉄砲。鳩遠自慢のガトリング砲でまとめて全員粉砕してやるのです」

「ストップ、ストーップ!」


 戦場に乱入しようと飛びあがった鳩遠ちゃんの足首を慌てて掴んで止める。腕を伸ばしたせいで、怪我した脇腹が痛い。


「……どうしたのです?」

「そのガトリング砲ってフレンドリーファイアーはしないの?」

「射線上にいるやつが悪いのです」

「駄目じゃん。全員粉砕って悪魔だけじゃなく、白狼くんと聖牛さんもバラバラになっちゃってんじゃん」

「これを機に目障りな二人も始末して、鳩遠が天界戦闘員のトップに躍り出るのです」

「こらこら。平和の象徴である鳩がそんな黒いこと考えちゃ駄目でしょ」

「むぅ……」


 鳩遠ちゃんは翼をたたみ、着陸した。良かった、考え直してくれたみたい。


 けど、またいつ暴走するかわからない状況だ。

 だって鳩遠ちゃん、ガトリング砲構えたまま戦いを見ているんだけど、いつまでも終わらない戦闘にイライラしているのか足で何度も地面をトントンしているんだもん。兎のスタンピングみたい。鳩なのに。


 鳩遠ちゃんによる大量虐殺バッドエンドを迎えないためにも、白狼くんと聖牛さんには早く悪魔を倒して欲しいところだけど……。

 だけど白狼くんVSケルベロス、聖牛さんVSザガンの戦いはどちらも力が拮抗しているようで、すぐに決着はつかなさそうだった。


 これは怪我が痛いとか言って休んでいる場合じゃないな。私も参戦して拮抗を崩さないと。

そのためには武器が必要なんだけど――鳩遠ちゃんから渡された〈ピースメーカー〉、ケルベロスに殴られた時に落としちゃったからなぁ……。


「鳩遠ちゃん。私、〈ピースメーカー〉を落としちゃったんだけど、どこにあるかわかったりしない?」

「わかるのです。それに万が一無くしても、神器に付与された神様の加護のおかげで、いつでも手元に呼び戻せるのです」

「マジ? いいなぁ、その機能。神様、私のスマホも神器にしてくれないかな。無くしても、すぐ見つかるように」

「良い案なのです。それに神器化してもらえば、ついでに神衣もついてきてお得なのです。服のデザインはどうするのです? 最近暑くなってきたし水着なんてどうです?」


 鳩遠ちゃんが、とんでもない神衣を提案してくる。


「不便すぎるでしょ。美容院の待合室で自分の番待ってる間、暇だからってスマホいじっちゃうと水着姿になっちゃうんだよ? 鳩遠ちゃん、水着姿の私を見た美容師さん、なんて言うと思う?」

「暑いですよね。エアコンの温度下げますね。って言うのです」

「ちげぇよ。美容院と病院、間違えてませんかって頭の心配されるわ。どこかに羞恥心落としてんじゃないかって思われるわ。って、落としてるで思い出した。私が落としちゃった羞恥心、じゃなくて神器、見つかった?」

「このとおりなのです」


 鳩遠ちゃんの手にサブマシンガン――神器〈ピースメーカー〉があらわれた。


「おー! ありがと!」


 受け取ろうと手をのばすと、〈ピースメーカー〉が遠ざかる。鳩遠ちゃんが自分の背中に隠した。なんで?


「お姉ちゃん、その怪我で何するつもりです?」

「私も戦いに加わろうと思って。大丈夫、怪我ならだいぶ良くなったから」


 そういって平気なことをアピールするために、ジャンプしてみせる。着地と同時に、脇腹に痛みが走った。ぐああああああ。

 じっとしてれば痛みを感じない程度にはよくなっていたから、油断してたぁ……。


「……ねっ、ジャンプしても平気でしょ?」

「お姉ちゃん、平気なのになんで丸まっているのです? それに涙目なのです」


 脇腹の痛みに耐えきれず、思わずしゃがみこんじゃった。何か言い訳しないと。


「これはジャンプした反動で体が縮こまったの。この後ジャンプすると、溜めジャンプになっていつもの二倍の距離高く跳べるんだけど、今はやめておくね」

「おぉ、さすがお姉ちゃんなのです。鳩遠には理解できないパワーアップ方法なのです」


 私にも理解できないけど。

 話している間に痛みが引いてきたので、ゆっくりと立ち上がる。


 さて――戦い続けている二組を見る。あの絶え間なく移動し目まぐるしく攻防が入れ替わる戦いにどう混じろう。

〈ピースメーカー〉は遠距離武器だから近づく必要はないけど、私の腕じゃ味方に当たっちゃいそう。

 なんとかばれない様に誤射の心配のない距離まで敵に近づいて攻撃できないかな。でも今の私の脇腹の状態じゃ走り回るのは辛そう。そうなると……。


「鳩遠ちゃん。また私を抱えて空飛んでくれないかな? 空から悪魔に奇襲をかけたいんだ」

「了解です。……そうなのです! 飛び立つ時、お姉ちゃんの溜めジャンプでスタートダッシュするのはどうです?」

「溜めジャンプは私の体への負担が大きいからやめておこう」

「残念なのです。では……」


 ガトリング砲を背中に回した鳩遠ちゃんが、私の後ろからそっと胴体に手を回し、ゆっくりと力を入れて抱き着く。


「痛くないです?」

「だいじょーぶ」


 思ったよりは痛くない。これなら我慢できそう。鳩遠ちゃんの翼が力強く羽ばたく。風圧で私たちの周りに砂埃が起こる。ゆっくり浮き上がりはじめ、そのままどんどん上昇していく。

 そうして、悪魔たちに見つからないような高さまで飛び上がった。


「それでお姉ちゃん、私たちはどう奇襲をかけるのです?」


 えーっと、どうしよう。鳩遠ちゃんにも攻撃してもらいたいけど、私を抱きかかえているとガトリング砲を使えないから……うん、決めた。

 私は思いついた作戦を鳩遠ちゃんに説明しはじめた。

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