9 VS白銀の凶星デカラビア
学校からバスと徒歩で数時間かけてたどり着いた山頂。その頂よりも、はるかに高い空。
さえぎるものが何もない縦横無尽に飛び回れるこの空間で、私と鳩遠ちゃんは悪魔との空戦を続けていた。
デカラビアは追いつかれそうになる度に、銀色鳥を差し向けてきた。その襲ってくる銀色鳥の群れを、鳩遠ちゃんの高速飛行と私の射撃で迎撃する。私たちの攻撃によって数が減る銀色鳥の群れ。
被害が大きくなってくると、銀色鳥たちは撤退をはじめた。
そうして銀色鳥を追い払った私たちは、遠くに逃げてしまったデカラビア目指して再び空を駆ける。
さっきから、そのパターンを何度も繰り返している。
けど、その展開にも終わりが見えてきた。デカラビアに付き従う銀色鳥の数が残りわずかになってきたから。
次の交戦で全部倒しきれそう――なんだけど、ずいぶんデカラビアたちに近づいたのに、いつまで経っても銀色鳥は、主に付き従ったままでこちらに向かってくる気配がない。
「もうすぐ追いつけそうだけど、このまま手下を待機させる気なのかな?」
「いえ! 鳥が動いたのです!」
鳩遠ちゃんの言葉どおり、デカラビアが手下をけしかけてきた。
残りわずかな部隊となった銀色鳥たちが、真っすぐこちらに向かって飛んでくる。
「鳩遠ちゃん! またターンして、逃げながら一方的に攻撃しようよ!」
「いえ、お姉ちゃん。デカラビアまであと少し、撤退は許可できないのです。ヘッドオンでの戦闘になるですが、なんとか頑張ってなのです!」
「げぇ! EDF本部みたいな無茶ぶりだぁ!」
ミサイルのように私たちに向かって突っ込んでくる鳥を〈ピースメーカー〉の銃弾で次々と打ち落とす。けど、全部は倒しきれない。
撃ち漏らした数羽の鳥たちが、私たちに向かって体当たりをしかけてきた。
「うわー! 総員、対ショック用意ー!」
慌てる私と裏腹に、鳩遠ちゃんは冷静だった。
「総員って二人しかいないのです」
せまる銀色鳥を、体を傾けるという最小限の動きだけでかわす。鳥たちが私のすぐ横をすれ違っていく。
「おお! 凄いよ鳩遠ちゃん! 見たか鳥ども! ロボゲーで赤くて偉い人が、当たらなければどうということはないって言ってたぞ!」
「スターリンって、そんなこと言っていたのです?」
「誰それ? なんのパイロット?」
知らないロボットのパイロット名が気になるけど、それよりも今は銀色鳥だ。体当たりをさけられた鳥たちはどうしてるかなと、後ろを振り返る。
「あれ? 鳥たち、諦めた?」
残り十羽にも満たない数になった鳥たちが、戦闘から離脱するかのように地表――山頂の方へと向かって飛んでいくのが見えた。
「どうしたんだろ?」
「これ以上の戦闘は、無駄と判断したのかもです」
そうならいいんだけど――気になるなぁ。
「お姉ちゃん、それよりも今は目の前のデカラビアなのです!」
「……そうだね。あっ! あいつ、高度を下げるよ!」
デカラビアが地表に向かって飛んでいく。さっき同じように地上へ飛んでいった手下たちと挟み撃ちにする気かなと思ったけど、手下が向かった山頂付近とは全く違う方角へえと飛んでいってる。
その先には、山の麓に広がる森があった。
「追いかけるのです!」
私たちの体も、急降下しはじめる。あっというまに近づいてくる、地上。
「あいつ、あのまま地上に突っ込む気なのかな?」
体の小さい私たちなら森の中に隠れることもできるけど、デカラビアの宇宙船のような大きな体では隠れることは不可能どころか、木にあたって傷だらけになると思うんだけど……。
けれども、デカラビアは速度を落とさずに森へと突っこんでいった。
あいつ、そこら中に生えてる木にぶつかって、自爆するぞ。
なんて思っていたら、デカラビアは木にぶつかる瞬間、その星形の体をまるで電動のこぎりのように高速回転しはじめた。その勢いで、つぎつぎと自分の体にぶつかってくる木を切り飛ばしていく。
そんなの、ありっ!?
デカラビアから遅れて森へと近づいていた私たちに向かって、切り飛ばされて丸太のようになった木々がいくつも飛んでくる。
「げぇ!?」
「まずいのですっ!」
慌てて〈ピースメーカー〉の引き金を引く。銃弾は丸太を穴だらけにはしたが、その勢いを落とすことは出来なかった。ぶつかるぅ!
私の体を押しつぶすような感覚が襲う。
ただ、その感覚を私の体に与えたのは丸太じゃなくて、鳩遠ちゃんだった。彼女が丸太を避けるために急上昇したのだ。
丸太が、ごおぉという凄まじい風の音と一緒に、私たちの真下を通過していった。
「迂闊だったのです。けど、もう同じ手は食わないのです!」
飛んでくる木に当たらないようにするためか、鳩遠ちゃんは森から十分離れた高度を水平飛行しはじめる。これで安心かな。
そういえば、私たちに丸太を飛ばしてきた張本人は、どこ行きやがったんだ?
丸太攻撃のせいで見失っちゃったデカラビアを探す。
……どこにいるか、わかりやすいな。森を開拓するように伐採しながら進んでいるため、すぐに見つけられた。
「鳩遠ちゃん、あいつ、あそこ飛んでるよ!」
「了解なのです。このまま、上から仕掛けるのです」
「らじゃー!」
しかし、私たちが近づくよりもはやく、デカラビアは森から飛び出し、そのまま天に向かって昇りはじめる。作戦がばれたのかな?
「逆に、私たちの上をとる気なのかな?」
「そうはさせないのですっ」
負けじと鳩遠ちゃんも上昇。デカラビアと競うように、複製世界の空を昇っていく。
そのまま両者、どこまでも昇っていくんじゃないかと思えたけど、ふいにデカラビアが急停止する。諦めたのかな? そんな奴じゃないか。
「何か仕掛けてくる気なのです」
そう警戒しながら、鳩遠ちゃんもデカラビアと同じ高度で停止する。
デカラビアが静止している今が攻撃するチャンスのようにも思えたけど、相手の位置は〈ピースメーカー〉の射程二百メートルより遠く感じる。撃っても有効打にならなさそう。
デカラビアがゆっくりと反転し、向きをかえた。顔もおへそもない全身銀色の海星のような見た目だから、どっちが前でどっちが後ろなのかわかんない奴だな。
こちらを見ているのか、お尻を向けて馬鹿にしているのかわからないけど、空中に制止したデカラビアの中心がゆっくりと開いていく。
……はっ!
「鳩遠ちゃん、私、大変なことに気づいた。デカラビアが顔を向けてるなら、あの開いていく部位は口だろうけど、背中を向けてる場合、アレはお尻の穴ってことにならない?」
「お姉ちゃん! アレは射出口なのです!」
「それ、結局どっちの穴? 射出だし、後ろの方ってこと?」
空に浮かぶデカラビアの銀色ボディが、ゆっくりと赤く光りはじめた。はじめは淡い色だった赤が徐々に濃くなっていく。七色に光ってゲーミングデカラビアになったりしないかな、なんて思った瞬間――。
カッ!
デカラビアの射出口から放たれたレーザーが、間一髪のとこで回避行動を間に合わせた鳩遠ちゃんと私の真横をかすめっていった。
「あれは、レーザーの射出口なのですっ!」
「あぁ、うん。そういえば、そんなもん出すって言ってたね……」
レーザー射出後、銀色に戻ったデカラビアのボディが再び赤く光りはじめる。
「やばいやばい! 二射目がくるよっ!」
「回避ぃ、なのですっ!」
急上昇する鳩遠ちゃん。私たちのすぐ下をレーザーが通り抜ける。
一方的に、攻撃されちゃってるよぉ!
「くっそぉ!」
射程外とわかってはいたけど、やられっぱなしのままではいられないと思い〈ピースメーカー〉の引き金を引く。
私がばらまいた銃弾は、体を回転させたデカラビアに簡単に弾き飛ばされてしまう。
「駄目かぁ!」
「遠すぎて本来の威力がでてないのです! 危険ですが、接近するのです!」
「わかった!」
鳩遠ちゃんが上昇をはじめる。
あれ? 接近するっていうわりには、上に行くの?
なんて思ってる私にむかって、デカラビアがレーザーを放つ。
一射、二射と放たれたレーザーを、鳩遠ちゃんは私を抱えたままひらりひらりと回避する。
レーザーが横をかすめていくの、ちょースリルあるんだけどぉ。
上昇していた私の体が急停止する。えっ、止まっちゃうとレーザーに当たっちゃうよ!?
なんて思った瞬間、私の体が斜め下方のデカラビア目掛けて急加速をはじめる。
この動きって、猛禽類が獲物を襲う時みたい。
せまる私たちを迎え撃つよう、斜め上方向きに変わったデカラビアの体が光る。レーザーがとんでくるっ!
私の視界がぐるっと一回転した。鳩遠ちゃんが急降下しながら、回避のために横転したせいだった。
直後、私たちの横を一筋の光線が通りぬけていった。こえぇ!
鳩遠ちゃんは速度をさらに上げながら、次々と放たれるレーザーを先ほどと同じように左右にロールして避ける。回避運動に合わせて私の視界も右回転、左回転。
レーザーが飛んでくる度に回転する視界。視界がぐるぐる、ぐるぐる、ぐーるぐる。
「おええええ。なんだか気持ち悪くなってきたぁ。三半規管が二班ぐらいやられたかもぉ」
「一斑残っていれば十分なのです! お姉ちゃん、そろそろ〈ピースメーカー〉の有効射程に入るのですっ!」
「頑張れぇ、最後の一斑!」
胃からこみあげてくる何かを我慢しながら、ぐるぐると回る視界の中でとらえたデカラビア目掛けて、弾を発射する。
私が引き金を引くと、デカラビアは突然、見えない指にフリック操作で操られてるかのようにスッと空中を移動した。そのドローンみたいな回避運動によって、銃弾がさけられてしまう。
「外れたぁ! でも、さっきと違ってよけるってことは――」
「当たれば有効なのですっ!」
デカラビアとの距離がどんどん近くなっていき、それに比例して的も大きくなっていく。けれども、私の射撃はハチドリのようにスッスッと動くデカラビアに当たらない。
反撃とばかりに放たれるビームを、鳩遠ちゃんはくるっくるっとロール運動で避けた。
私たちとデカラビアが繰り広げるドッグファイトはお互いの攻撃が当たらないまま、どんどん距離だけが近くなっていく。うー、わんわん!
――ちょっと待って。この戦い、徐々に難易度が上がっていってるぞ。
戦っている両者の距離が近くなるということは、攻撃の発射から着弾までの距離が短くなるということで――お互い余裕を持って避けられていたはずの攻撃が、だんだんとギリギリになってきた。
「あっちぃ! ちょっと足先にビームがかすった気がするぅ! 鳩遠ちゃん、私の足、無事ぃ!?」
「やられても大丈夫なのです。翼と比べれば、足なんて飾りなのです」
「大切だわっ!」
デカラビアのビームが私たちをかすめたように、〈ピースメーカー〉の銃弾もデカラビアの体をかすめはじめる。
お互いの距離は残りわずかとなり、次の瞬間には、どちらかの攻撃が直撃してもおかしくない状況になっていた。
次こそ当ててやる!
そう思い銃口をデカラビアに向け引き金を引こうとした瞬間、私の射撃よりも一瞬早く、デカラビアのレーザー射出口が私たちをとらえるのが、見えた。




