7 襲撃
二度目の写真撮影はデカラビアに邪魔されることなく、無事に終わった。
もう一度目の前に飛んできたらやっつけてやろうと思って、身構えてたのに……そのせいで、険しい顔で写真撮られちゃったよぉ。
まぁ、頭がカラスになるよりかはマシだよね。
写真撮影が終わった後には、待ち望んでいたお弁当タイムだ。
ウッドデッキ、この山の歴史が書いてある看板、それとわずかな木製のベンチしかない広々とした山頂は、レジャーシートの上でお弁当を食べる二年生によって埋めつくされていた。
みんな、仲の良い友達と一緒に思い思いの場所で景色や会話を楽しみながらお弁当を食べている。そんな中、私は――。
「マジで作る気なの?」
はーちゃんは私の口にから揚げを運びながら、そうたずねた。もぐもぐと、口の中のから揚げを食べながら、私はこくりとうなずく。
「作ったとして、素人が上手に扱えるのかなぁ?」
山田ちゃんが私の口元に卵焼きを運んでくれる。もぐもぐ。
「わかんない。でもやるだけやってみようと思って」
ごくん。
玉子焼きをお腹におさめながら、山頂から少し外れたところの草やぶから集めてきた草をころころと丸めていく。
そうして束ねた草は、一本のローブみたいになった。
「そもそも姫野ちゃん、さっきも言ったけど鳥に危害をくわえちゃ駄目なんだよ?」
「うん。だから、傷付けないように気をつける」
「いや、スリングショット作ろうとしてる奴のセリフじゃないだろ……」
はーちゃんの言うとおり、私は今、スリングショットを作ろうとしていた。材料はそこらで集めた、草や木の枝といった自然のもの。
これで、カラスに憑いたデカラビアを射抜いてやる。
そのデカラビアはというと、写真撮影が終わってからずーっと私の頭上(十メートルぐらい上なのかな?)をくるくる飛び回っている。
私のことを馬鹿にしてんのかも。相変わらず、ムカつく奴だ。
飛んでるのが私のすぐ上だったら、ピヨってると勘違いされそう。格ゲーだったら、コンボを叩きこまれてるな。
ロープのようになった草をぴーんと引っ張ってみる。ぶちっ。
「あぁ! 切れちゃった……」
「もう諦めなよ小乃葉。デカラビアなんてほっとけって」
はーちゃんが口にした「カラス』が「デカラビア」に変換された。
カラスならともかく、デカラビアはほっとくわけにはいかないんだよねぇ。はやく倒さないと、大変なことになっちゃうんだから。
「きゃあー!」
突然、山田ちゃんが悲鳴をあげる。空を指差していた。
何事かと思い、私とはーちゃんも慌てて空を見ると――どこから集まってきたのか、さっきまでは一羽だったカラスが、数十羽に増えていた。
上空を黒い鳥の群れが、くるくると旋回して円を描いている。統率のとれた軍隊が、一糸乱れず行進しているようにもみえた。
「いやいや、おかしいって! 小乃葉、カラスに何か恨まれるようなことしたのっ?」
なんてはーちゃんに聞かれたけど、私には答える余裕がなかった。
なぜなら、カラスの群れを従えるように、巨大な銀色の海星のような物体が空に浮いていたから。
まるでと宇宙船のように大きな五芒星がなんなのか、私は知っていた。
悪魔、デカラビア。
とうとう〈真化〉しちゃったんだ。
どうしよう。神様から教わった皆殺しエピソードから考えるに、会話で時間を稼げるような相手とは思えない。
それでも、やってみるしかない!
「こんにちはー!」
まずは挨拶。基本だよね。
会話なんて出来ない相手かと思ったけど、デカラビアは私の声に反応してぴかぴかと光る。いけるかっ!?
「ノイトイ、ノイトイ!」
あっ、駄目そう。何を言ってるのか、全くわからん。
デカラビアの無機質な声に反応して、カラスたちもぴかぴか光る。黒色だった体が銀色に変わり、金属物質のような姿になった。
銀色の鳥たちが、何かを落とす。鳥が落とすものといえば――。
「きたなっ!」
慌てて身をかわす。
さっきまで私が立っていた場所に、ぼたぼたぼたと鳥の糞が落ちた。地面に落ちた糞はシューと煙を上げ、芝を溶かして土に小さな穴をあけた。
げぇ、なにこれ!?
「ただの糞じゃないのっ!?」
驚く私に向かって、上空の銀色鳥たちが再び糞爆撃をしてくる。
「うわぁ!」
慌てて走りだして、爆撃から逃げる。
「空から一方的に攻撃してくるなんて、汚いぞー! 二重の意味で! くっそー! あっ、『くっそー』は二重の意味で、言ったわけじゃないよっ!?」
ぼたぼたぼたぼた。
あぶねぇ! アホなこと言ってる場合じゃねぇ! なんとかしないと!
「結局、必要なのは遠距離武器かぁ! 銃でもあれば――」
「どうぞです」
何か手渡される。銃だった。あとなんか、一瞬まぶしかったような――気のせいかな。まぁ、いいや。
ねんがんの武器を手に入れたぞ!
「何が鳥獣保護法じゃー! くそくらえ鳥どもぉー!」
銃口を空に向け、引き金を引く。銀色鳥の群れ目掛けてパラパラパラパラと大量の弾がばらまかれた。
数羽の鳥に銃弾が当たる。撃ち抜かれた鳥が、地面へと落ちてきた。芝の上に力なく横たわる鳥が消えていくのを横目に、生き残った大量の銀色鳥たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
やったぁ!
「デカラビアにずっとやられっぱなしだったけど、ついに一矢報いてやったぞぉ! この銃のおかげだよ、ありがとね――誰?」
何も考えずに銃を受け取ってそのまま撃ってたけど、その銃を私にくれた貴方はどちら様?
私の目の前には、軍服風のかっこかわいいドレスを着ている小学校中学年ぐらいの女の子がいた。背中には灰色の翼。
女の子が、深々とお辞儀をする。
「鳩の神使、鳩遠なのです。神様の命で、救援にきたのです」
「これはこれはご丁寧に。姫野小乃葉です」
神使の人だったか。よく考えれば、背中に羽が生えてる人なんて、悪魔か神使のどっちかに決まってるよね。
そういえば銀色鳥に夢中で気づかなかったけど、山頂にあれだけたくさんいた生徒がいなくなってる。ということは――。
「もしかして、ここって〈複製世界〉?」
鳩遠ちゃんが小さくうなずく。あってた。
〈複製世界〉は相変わらず、即席で作られた世界とは思えないほど、直前までいた世界にそっくり。山頂どころか、そこから見える遠くの景色までもまるっきり同じだ。
ん? じゃあ神使の鳩遠ちゃんが渡してくれたこの銃って――。
「もしかして、これ神器?」
再びこくっとうなずく鳩遠ちゃん。
っていつの間にか、私の体操着が目の前の鳩遠ちゃんとお揃いの軍服姿に変わってんじゃん。ぜんぜん気づかなかったよ。
「その神器は〈ピースメーカー〉という名前なのです。名前からコルト・シングル・アクション・アーミーを連想しますが、残念ながらサブマシンガンなのです」
「何が残念なのかわからないけど、サブマシンガンなのはわかった。これってリロード……弾薬はどうやって補充すればいいの?」
「神器の銃に弾切れなんて言葉は存在しないのです」
「そっかよかった。弾は拾って再利用してくださいって言われたらどうしようかと思った」
「そのシステムが通用する銃器は、割り箸鉄砲ぐらいなのです」
弾切れの心配がないってことは、無駄撃ちを気にする必要も無いってことだよね。
銃なんてゲームで撃ったことしかないから、上手に扱えるか不安だったけど、外しても気にしなくていいのは心強いな。
よーし、この神器でデカラビアをやっつけてやるぞぉー!
「……あれ、デカラビアどこ行った?」
頭上に見えるのは青空だけ。巨大なデカラビアや、その取り巻きの銀色鳥の群れはどこにも見当たらない。
「さっき向こうに飛んでいったのです」
鳩遠ちゃんが空の向こうを指差す。よく見ると、青空に中にぽつんと銀色の星が浮かんでいた。




