表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あくまたたき  作者: 永山てりあ
2 二刀の侍と巨斧の牛王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/32

10 作戦

 刀を受け取ると、白狼(しろう)くんから神器〈白咬(はくごう)〉を受け取ったときのようにまばゆい光に包まれ、一瞬で私の服がパジャマから、聖牛さんの服とよく似た袴姿に変わった。

 ただ私の神衣は江戸時代の侍みたいな聖牛さんの服と違い、袴はスカートのように丈が短く草履はブーツに変わっていたため、大正時代のファッションっぽかった。


 鏡で自分の姿を確認したかったけど、クローゼットのドア裏にある鏡は、さっき聖牛さんが吹っ飛んできたときに割れちゃったんだよね。洗面所に行けば確認できそうだけど……のんびりしてる暇はなさそうだし我慢しよう。


「小乃葉。その神器〈蚊虻走牛(ぶんぼうそうぎゅう)〉はお前のような力の弱いものが使ってこそ真価を発揮する刀。彼我の実力差が大きければ大きいほど、切れ味が増すのだ。その刀なら、お前でもザガンに手傷を負わせることができるだろう」

「それなら私、大活躍できるかもしれないじゃん!」


 嬉しくなって、思わず刀を振り回す。


「おい馬鹿! 鞘に入っているとはいえ、こんな狭い場所で神器を振り回すな!」

「ごめん。舞い上がった」


 怒られちゃった。


「しかし小乃葉、手傷を負わせるにはそもそも当たらねば始まらんぞ? お前は刀を扱ったことはあるのか?」

「ううん、ない。振るどころか、持つのも初めて」


 私の答えを聞いて、聖牛さんが明らかにがっかりする。


「いやいや、普通の中学生――どころか今を生きる人間のほとんどは刀を振ったことがないからね? 毎朝起きたら真剣で素振りするのが日課です、なんて人いないから」

「そうか。なら今度から日課にするといいぞ」


 真面目な顔で言う聖牛さん。冗談じゃないらしい。


「日課って、一度逃すとログインする気が急激に失せるから、作らないほうがいいと思う」

「何の話だ。……しかし完全な素人となると、小乃葉の攻撃はザガンには当たるまい」

「確かに刀振ったことないけど、当たらないかなぁ? ザガンってそんな速そうに見えなかったけど……」


 聖牛さんが速いから、遅くみえたのかな? そんな私の疑問に聖牛さんが答えをくれる。


「巨体だから遅く見えるだけだ。それと小乃葉が当てられると勘違いしてしまうのは、拙者の攻撃がザガンにとって避ける必要がなく、全て当たっていることも原因だろう」


 そう悔しそうに言いながら、話しを続ける。


「さっきも言ったとおり、ザガンの動きは遅くはない。その遅くないザガンが繰り出す強力な一撃を避けながらの戦闘では、どうしても刀に力をこめづらくなってしまってな……なんとか力を乗せた一撃を叩きこむだけの隙を作れれば良いのだが……」


 隙かぁ。


「ザガンの気を逸らせばいいってことだよねぇ? それなら私の得意分野な気がする。気を逸らすことに関して私の右に出る者はいないよ。気が散るから大人しくしててって怒られたこともあるからね」

「誇らしげにいうことなのか、それは……」

「それじゃー私がザガンの気を逸らして、聖牛さんがその隙を突いて攻撃するって作戦でいいのかな?」

「いや待て。そうだな……」


 そうして私と聖牛さんは打倒ザガンのための作戦を立てはじめた――。




「私の姿、変じゃない?」


 部屋の穴から飛び降り、庭に着地した私は、少し勢いが弱くなった雨を浴びながら、自分の着物姿を聖牛さんに確認する。結局、似合ってるかどうか、ちゃんと鏡で確認できてないから不安。


「そうか? 変とは感じなかったが……拙者は容姿の流行りには疎くてな」


 前を歩く聖牛さんは振り返らずに答え、門から道路へと出る。その聖牛さんに続いて私も道路へ。

 道の向こうでは大きな牛頭の悪魔が、道路の真ん中に偉そうに座ってこちらを見ていた。私たち二人の姿を確認したザガンはゆっくりと立ち上がり、民家の石塀に刺さった二つの斧をそれぞれ右と左の手で引き抜く。


「人間の世界に戻らんから生きておるとは思ったが……その姿では死んでるのと変わらんな!」


 ザガンは傷だらけの聖牛さんを見て、豪快に笑う。


「そうか? お前には、そう見えるのか? 生憎、拙者は気炎万丈(きえんばんじょう)、お前を倒す算段がついたおかげでな、闘志が満ち溢れているよ」


 気炎万丈って言葉は知ってる。ゲームのキャラが口にしてたから。意味は知らないけど。


「このザガン様を倒す? 吹っ飛ばされたついでに頭を打って記憶を失くしたか? もう一度吹っ飛ばして、思いださせてやろうか?」


 ザガンは聖牛さんから一瞬視線を外し、私を一瞥する。見られたからには何か威圧してやろうと鞘から刀を抜き、振り回していろんなポーズをとってみたけど、すでにザガンの視線は聖牛さんへと移っていた。

 たぶんザガンが見たのは私じゃなくて、神器〈蚊虻走牛(ぶんぼうそうぎゅう)〉の方だ。この刀がザガンにとって危険なことに気づいているのかも。


「そうだ。先に謝っておこう」


 聖牛さんがそう切り出す


「ここから先は二対一の戦いになってしまう。すまないな」

「……わはははは!」


 聖牛さんの言葉を聞いて、ザガンはまたも豪快に笑う。


「神の使いよ、やはり頭を打っておかしくなったか! 貴様の攻撃ですらこのザガンには通じないというのに、あんな雑魚に何ができる?」


 人を魚扱いとは失礼な。ここはガツンと一言、言ってやろう。


「確かに私たちを魚で例えたら、あんたは海の頂点シャチ、それに苦戦してる聖牛さんはイルカ、隠れてばっかの私はカクレクマノミって感じだろうけど」

「小乃葉、魚で例えられてないぞ。三分の二が哺乳類だぞ」


 あんだと。そう聖牛さんに指摘されたけど、ここで話をやめるわけにはいかない。


「でもね、ザガン。あんたは知らないかもしれないけど、弱い魚でもたくさん集まって力を合わせれば、大きな魚を追い払えるんだよ。私はスイミーで学んだんだ」

「小乃葉、数の力で戦うという作戦は素晴らしいが、私たちは二人しかおらんぞ」


 あんだと。しかし、ここで話をやめるわけには断じていかないのだ。


「カクレクマノミの私が疑似餌となることで、ザガン! 私と聖牛さんはお前に勝てる立派なチョウチンアンコウになるんだよ!」

「小乃葉、力を合わせたわりに、拙者、イルカから弱体化してないか? チョウチンアンコウでシャチに勝てるとは思えぬのだが……」

「もうー! 聖牛さん! 私のかっこいい演説を邪魔しないでっ!」

「す、すまない。しかし、どうも気になってしまってな」


 まぁ、言いたいことは言ったし、いっか。悪魔のくせに大人しく私の演説を聞いてくれたザガンが、聖牛さんを見る。


「おい神の使い。お前は本当にこんな馬鹿を戦力として数える気か?」

「私のことを馬鹿だと、てめぇー! さっきから偉そうにしてるけどなぁ、私はお前にスーパーと家で二勝してるんだよっ! 今のところ二勝一敗でこっちのが勝ってるんだから、調子に乗るなよぉ!」

「おい待て小乃葉。一敗ってなんだ。どの戦いを負けと数えたのだ? 言っておくが拙者はまだ負けてはいないぞ」


 聞き捨てならないと聖牛さんが訂正を求めたが、私はザガンを煽り続ける。


「私にやられた時よりちょっと図体が大きくなったからって調子に乗らないでよねっ! アンタなんかあっという間にやっつけて、埼玉県産ザガン肉としてスーパーの精肉コーナーに私の顔写真生産者シールを貼って並べてやるんだから。……いや、産地は魔界だから、産地偽装になっちゃうか。どう思う、聖牛さん?」

「そんなことより小乃葉、拙者は負けてないぞ」


 どーんと大きな音。私の話が気に入らなかったのか、ザガンは近くの民家の塀を斧で壊し、大きなため息を吐く。どれぐらい大きいかと言えば、人が吹き飛ばせそうなほど。


「これだから人間という愚かな生き物は……マルバスのくだらない技術により力の発揮でないこのザガン様をたまたま二度倒したぐらいで、ここまで調子に乗ることができるとは……」

「それほどでも……」

「いや、小乃葉。褒められてないぞ」

「なんだ。勝って凄いねって褒められたのかと思った」


 照れて損したと思ってる私に向かって、ザガンが斧を向けた。


「よかろう。ならばその身にこのザガン様の恐ろしさを刻み、自らの死で己が思い上がりを知がよい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ