表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あくまたたき  作者: 永山てりあ
2 二刀の侍と巨斧の牛王

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/30

8 聖牛

 頬に当たる雨粒よりも、私には気になってることがあった。

 それは〈真化〉し牛頭の巨人姿となって道路に現れたザガン、そのザガンが投げた斧によって破壊された私の部屋、その部屋のように無残な姿になる前に私を救い出してくれた牛の神使の聖牛(せいご)さんと、一瞬で私に起きたたくさんの出来事のどれよりも気になってること。


「なんで電柱の上?」


 着地先は道路じゃ駄目だったの?

 雨を浴びながら聖牛さんの顔を見るけど、彼は私の呟きなんて気にせず巨大な悪魔を睨みつけていた。

 聖牛さんは私を抱えたまま、電柱から飛び降り、道路へと着地する。降りるんだ……。

ますます、電柱の上に飛び乗った理由がわかんなくなる。


「ありがとう」


 道路に降ろしてもらったのでお礼を言ったんだけど、聖牛さんは私をちらりとも見ずにザガンの方へと歩き始める。


 そのザガンが腕を伸ばす。腕の先には私の部屋。

 部屋の方からガラガラと音がしたかと思うと、斧が飛びだしてきてザガンの手元へと戻る。何その手品みたいな技、斧投げ放題じゃん。


 そうして投げた斧を回収し、両手に斧を持った状態になったザガンは、ゆっくりと自分に向かってくる聖牛さんを見てつまらなさそうにする。


「まさかこのザガン様の相手が神ではなく使いという雑魚、それもたった一人とは……舐められたものだな。まぁ、よい。手始めに貴様を血祭りにあげ、その屍を神への手土産としてやるとするか」


 そう言ってザガンが、数メートルという距離まで近づいてきた聖牛さんに右腕の斧を向ける。

斧を向けられた聖牛さんが両手を開く。


「たかが地獄の王が偉そうに。大言壮語(たいげんそうご)とはこのことだな。貴様の相手なぞ、神様が出るまでもない。その右腕である拙者で十分だ」


 聖牛さん、神様の右腕なんだ。……いや、白狼(しろう)くんも同じこと言ってなかった? 神様、外付けの右腕二本目だけど。右に重心偏っちゃうから、どっちかは左腕になってあげたら?

 なんて私がいま気にしなくてもよさそうなことを考えていると、聖牛さんの右手と左手に一本ずつ、抜き身の大太刀が出現する。何その手品みたいな技。


 小雨の降る真夜中の住宅街。二本の巨大な斧を持つザガンと二本の大太刀を持つ聖牛さん。武器を構えた二頭の牛が相対する。

 私も構えようとして……って、そもそも武器がないんだけどぉ!?


「ちょっとタイムぅー!」


 今にも戦いを始めそうな二人を止め、私は聖牛さんに駆け寄り「ん」と両手を出す。


「……何の真似だ?」


 私の意図が伝わらなかったらしく聖牛さんが険しい顔をしたので、言葉にする。


「神器、貸ーしーてー」

「何のためにだ?」

「何のためって、もちろん私も戦うためだけど」

「戦う? お前が? 人間の、それも子供のお前がか?」

「な、なに?」

「邪魔なだけだ。引っ込んでおれ」


 そう言って聖牛さんは、お前にもう用はないとばかりに視線の先を私からザガンへと変える。

 ひどぉー! 確かにケルベロスの時は白狼くんの足引っ張ってたけどさぁ、それでも最後にはちゃんと活躍したのに、そんな言い方ってないじゃんかぁ。

 しかし聖牛さんは、これ以上私の話を聞く気はないとばかりに完全に私のことを無視している。しょうがない。聖牛さんが駄目なら、もう一方に意見を求めよう。


「ねぇ、ザガン。お前はどう思う? 神じゃなくて物足りないって言ってたし、私が参加した方が嬉しいよね?」


 話しかけられたザガンは一瞬眉をひそめてから、右手を振り上げる。


「ちっ」


 聖牛さんの舌打ちが聞こえた瞬間、私の体が持ち上がり、宙を舞う。なんだぁー!?

 どうやら聖牛さんが私のパジャマを掴んで、そのまま私を放り投げたらしい。

宙を舞いながら、私が立っていた道路に巨大な斧が突き刺さるのが見えた。コンクリートが破壊され、破片が飛び散る。


「ぐへぇ」


 放り投げられた私は近くの生垣の上に背中から落ちた。パジャマ越しに枝がちくちくして、微妙にいてぇ。あの斧に当たるよりはマシだけど。


「あんだよぉ。ケルベロスと違ってしゃべれる癖に、問答無用かよぉ……」


 そう私が呟いた瞬間、今度は聖牛さんがわずかに眉を動かしたように見えた。な、なに? 何が気に食わなかったの? 問答無用って言葉に反応したような。

 それにしても、この牛たち、どっちも気性荒くてやりづらいよぉ。私に優しかった白狼くんが恋しい。


「ふん。虫を潰し損ねたか」


 ザガンのセリフを聞いて「虫のように私に潰されたのはお前の方だろ」とツッコミを入れたかったけど、また斧を投げられたら嫌なので黙っておく。

生垣からよそのお庭へと降り、パジャマに付いた草を払い落してから顔を上げると、私の部屋の壁に出来た大きな穴が目に入った。

 あそこから斧が入っていき、部屋の中の壁を壊し、廊下へと……。


「あーーーーっ!」

「なんだ!」


 道路にいる聖牛さんに、今気づいた大変なことを教える。


「お父さんお母さんとお兄ちゃん! うちにあんな大きな穴開いちゃってるけど、私の家族は無事なのっ!?」

「何かと思えば」

「何かって……めちゃくちゃ大切なことだよっ!」

「安心しろ。ザガンが斧を投げる前に、私が作った複製世界に転移済みだ」


 斧を投げる前ってことは、本当の私の家は壊れてないってことか。よかった。お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも棚の上の小乃葉四天王も、部屋のゲーム達も無事なんだ。

 ほっと安心していると、その私を四つの瞳が睨みつけていることに気づく。敵の悪魔ザガンと味方の神使の聖牛さん。


「ごめん、もう邪魔しないから。あとは若い二人で好きにやって」


 二人の険しい視線を背に、私はその場から逃げるように立ち去る。よそのお宅の門を通って道路に出て、二人から距離をとり、安全そうな電柱の裏へと隠れる。

部屋から突然外に放りだされたので、雨に濡れたパジャマや、歩くたびに裸足に触れるコンクリートの感触が気持ち悪かった。あとでタイミングを見計らって、家に着替えに行こうかな?

 今は我慢して、ここから牛と牛の戦いを見守ろう。


 降り注ぐ雨の中、武器を構え、睨みあう二者。聖牛さんが口を開く。


「余計な邪魔がはいったが……始めるか。嚆矢濫觴(こうしらんしょう)となる合図はいるか?」


 余計な邪魔って私のことかぁ! そしてこうしらんちょう(?)って何っ!? 子牛の調子が乱れるの? 先発投手として登板した時、コントロールが乱れちゃうの? 気になるけど、聞くとまた邪魔って怒られそうだから黙って見守る。

 ザガンがニヤリと笑う。


「ふん。好きにかかってこい。それともハンデが必要か?」


 その言葉に聖牛さんは一瞬むっとした表情を浮かべてから、ゆっくりと歩き始める。


「……参る!」


 そう叫んだ瞬間、急加速する聖牛さん。一気に間合いを詰め、ザガンへと迫る。とりあえず、こっちの牛の調子は悪くなさそう。


 聖牛さんは長身だけど、あくまで人間と比べたら長身というだけで、巨人のような図体のザガンと比べたら大人と幼児のような背丈の差があった。

当然、その差は二人の腕の長さ――攻撃の間合いにも影響がでた。聖牛さんの大太刀がザガンの巨斧より長ければその差も埋められそうだけど、残念なことに武器の長さ比べは差が無いように見える。


 そのため迫っていたのは聖牛さんだけど、先に攻撃が届く距離になったザガンが初撃を振るう。丸太のような右腕が繰り出した水平の一撃を、聖牛さんは身を捻って避ける。

 避けられた斧が電柱に当たる。電柱は半ばから折れ、上半分が道路に落ちて、巨大な音を響かせた。


 あかん、電柱の後ろは安全地帯じゃない。あそこに隠れてたら、私も電柱ごと真っ二つだったよ。電柱の裏から移動した方がいいかな?


「そのような大振りな攻撃、当たるかっ!」


 聖牛さんが大太刀を振るう。まず、右の一撃、次いで左の二撃目。それぞれがザガンの左右の脇腹を捉える。

 がんっ。小雨の音をかき消すように、頑丈な金属と金属がぶつかったような音が、住人のいない偽りの住宅街に響く。聖牛さんが放った左右の攻撃はどちらもザガンの頑強な体に跳ね返され、傷一つつけることが出来なかった。


「なんだと!?」


 自分の攻撃が通じなかったことに驚きの声を上げながら、ザガンが振り下ろした斧を後ろに飛び避ける。

斧は道路に突き刺さり、コンクリートの破片を周囲に飛び散らせた。あんなの食らったら、一発でミンチになっちゃいそう。

 ザガンは地面に突き刺さった斧を抜きながら不敵に笑う。


「今、何かしたか? まさか、今のが攻撃ではないよなぁ?」

「……悪魔如きが、調子にのるなよ」


 駆け出し、再び交差する二匹の牛。

 ザガンが両腕の斧を振るう。その度に民家の塀は崩れ、街灯が折れる。あっという間に見慣れた近所の光景が、爆撃を受けた戦場のように変わっていく。


 その爆弾のように激しい攻撃を聖牛さんはひらりひらりと避けつつ、大太刀を振るう。全く当たらないザガンの斧と違い、大太刀は何度もザガンの胴体や腕を捉えるが、相変わらず傷一つ付けることが出来ない。

 街灯をスポットライト代わりに、雨の降る住宅街の道路というステージで対照的な戦いを繰り広げる二者。


 一息つくためなのか、聖牛さんが大きく後ろに飛びのき、ザガンから距離をとる。

 しかし、ザガンは休ませまいと聖牛さん目掛けて斧を投げる。その投擲攻撃を難なく躱す聖牛さん。避けられた斧は、自動車のように道路に沿って飛んでいく。


 電柱に隠れる私の横を猛スピードで斧が通り過ぎる。その風で私の髪が揺れた。こえー。もう二度と私の近くを飛んでくるなよ?


「ふん。避けたか」


 ザガンが右手を伸ばす。飛んでいった斧は私の横を、そして聖牛さんの横を通り抜けザガンの右手へと戻っていく。言ったそばから私の近くを飛んでやがる。

 斧が手元に戻る隙を突こうとしたのか、聖牛さんがザガン目掛けて駆けだす。そうして再び火花を散らし始める二頭の牛。


 聖牛さんは、一撃ごとに住宅街を破壊していくザガンの斧攻撃を躱しつつ、二振りの大太刀で何度も斬りつけるが、相変わらず傷一つ負わすことが出来ずにいた。さっきの繰り返し。


 そんな戦いの様子を隠れながら見守ってた私は思う。これって不味くない? 今のところ、どっちも傷を負ってないって点では互角なんだけど……。

 当たってないから怪我をしていない聖牛さんと、当たってるのに怪我をしないザガンとじゃ、凄く差がある気がする。圧倒的に聖牛さんが不利な状況じゃない?

SRPGだと剣は斧に有利なのにぃ。


 こんなところでのんびり観戦してる場合じゃないぞ。何とかしないと。とはいえ、あの二頭の牛の戦いに神器無しで割り込んだところで、あっという間に小乃葉のミンチ肉が一つ出来上がるだけ。

 さっき、強引にでも聖牛さんから神器借りるべきだったなぁ。失敗したぁ。


 あと私に出来そうなこと――って言っても、悪魔との戦闘経験少ないし、知識も多くない私に良い案が思い浮かぶわけない。……そうだ詳しい人に聞けばいいんだ。神様に電話しよう。何か良い案がもらえるかも。


 私はスマホを取りに行くため、電柱から飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ