7 午前三時
目が覚める。瞼を開けても真っ暗。
一日中雨が降ってるせいか、部屋の中はじめじめしてる。そのせいか、部屋の温度は高くないのに寝苦しくて目が覚めてしまった。
お気に入りのパジャマなんだけど、そろそろ梅雨が明けて暑くなるらしいし、生地の厚いこのパジャマはボックスに送らなければいけないのかもしれない。でも、窓の外でぽたぽたと鳴る雨音を聞くと、梅雨開けが近づいているとは思えなかった。
今何時だろ? 枕元のスマホを手に取って時刻を確認する。午前一時。まだ二時間しか寝てない。喉乾いたなぁ。
ベッドから降りて、枕元のリモコンで部屋の電気を点ける。室内が一瞬で明るくなり、思わず眩しさから目を細める。
眼が光になれてから部屋を出ると、廊下は真っ暗だった。明るさに慣れてしまったので、よく見えない。まぁ、自分の家だから多少見づらいぐらい、問題ないけど。
廊下、階段とスイッチを押して明かりを点けて行きながら進んでいく。誰もいないリビング、そして台所。冷蔵庫から作り置きされた麦茶を取り出し、レアリティコモンのよくあるコップに注ぐ。腰に手をあて、ごくごくー。
使ったコップをさっと洗って水切りラックに置く。来た時とは逆に電気を消していきながら二階の自室へ。
時刻はお化けがアップしはじめるホラー展開にちょうどいい時間だったけど、何も起こらずに無事ベッドへ到着。まぁ今更お化けなんて出てきても、悪魔で未知の存在に慣れたし驚かないかも。いや、やっぱ怖いから、出てこないで。
でも、なんでお化けって夜に出てくるんだろう。現れるには私と〈器〉が必要な悪魔みたいに、お化けにも出現に必要なものがあるのかなぁ。午前零時から三時までしか、お化けエネルギーが溜まらずに姿を現わせられないとか。
まあ、お化けがいるかわからないし、こんなこと考えててもしょうがないか。
今私がすべきことは明日の授業中に眠くならないように、しっかり睡眠をとること。だから、おやすみなさい。
……。
…………寝られん。寝なきゃと思えば思うほど、寝られなくなってくるこの現象なんなの。眠くなるまで、ゲームしようかな?
うん、そうしよう。
ベッドから降り、机の上に置かれた携帯ゲーム機を手に取って、再びベッドの上に戻る。うつ伏せに寝て、胸元に枕をあててゲームが遊びやすい態勢を作る。
準備おっけー。電源ON。
ちょっとだけ、遊ぼう。眠くなるまで。うん、眠くなるまでだからね。
……やばいよ。
ゲームを止め、スマホで時間を確認する。もうすぐ三時だよ。ゲームに夢中になっちゃったよ。ゲームしてるとなんでこうあっという間に時間が経つのかな。
これ以上起きてるのはさすがに不味いと思い、ベッドから出てゲーム機を机に置く。
すっかり目が覚めちゃったなぁなんて思ってると、カーテンがかかった窓から赤い光が漏れていることに気づいた。
なんだろう? 救急車のランプかな? サイレンの音はしなかったけど、真夜中だから鳴らさなかったのかも。
気になって、カーテンを開ける。
「はあっ!?」
突然、目に飛び込んできたありえない光景に驚き、素っ頓狂な声をあげてしまう。
赤い光の発光源は、私の部屋の窓から見える、すぐ近くの道路にあった。街灯に照らされた道に、車を飲み込めるほどの大きな黒い球体が浮いており、そこから赤い光が漏れでている。
昼間、買い物から帰ってきたときにはこんな球体はなかった。あったら大騒ぎになってるし。
過去に一度、この球体と良く似たものを見たことがある。音楽室で見た、ケルベロスが出てきた球体にそっくり。
物凄く嫌な予感がする。いや、予感と表現することはもう無理そうだった。球体から丸太のような腕が出てきたから。
続けて二つの角が生えた頭部、巨大な胴体、その体を飛ばすには心細いサイズの背中の翼、腰の左右に一つずつぶら下がった大きな斧、そして太い足が現れる。
そうして道路に、二階の窓を超えるほどの大きな牛頭の巨人が姿を現すと、黒い球体は役目を終えたのか急速に小さくなって消えてしまった。
こいつの姿って――ザガン!?
なんで!? 何を〈器〉にして姿を現わしたの!?
人間界に〈真化〉した姿で現れたザガンは、首周りの筋肉をほぐすように首を右、左と傾けてから、腰の斧を右手と左手に一本ずつ持つ。
「うおおおおお!」
ザガンが雨をもたらす真っ黒な空に向かって、雄たけびを上げる。窓ガラスが強風あおられたかのように揺れた。
大変だ! 神さまに連絡しなきゃ!
スマホを取ろうと窓から離れようとした瞬間、巨大な背丈のザガンと目が合う。
私を見つけたザガンが、右手の斧を大きく振りかぶる。
ちょっとちょっとっ! 噓でしょ!?
慌てて窓から離れようとした私の視界に、ザガンが投げた斧が飛び込む。
斧は窓ガラスや壁を破壊して大きな穴を作り、ベッドと棚をバラバラにして、その先の壁も壊す。棚の中に入っていた小物や小乃葉四天王のぬいぐるみが宙を舞った。
投擲された斧は、その軌道上の物すべてを粉砕しながら通過したため、破壊された痕跡から斧がどんな道筋を辿ったのかよくわかった。
一瞬で無残な姿になった自分の部屋を、私は電柱の上から見つめる。正確には、電柱の上で知らない男の人に抱えられながら見つめている。
「危機一髪、といったところか。貴様の命がどうなろうが構わぬと言いたいところだが、神様の命に貴様の保護が含まれている以上、死なれては困るからな」
江戸時代の侍のような袴姿に、頭部に牛の角を二本生やす長身の青年は、私を抱えながら偉そうに言った。
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