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王家の呪いと吸血鬼の血

遥か昔。

人と異形のものが、同じ夜に息づいていた時代――。


北の果て、氷と影に覆われし地にて、ひとつの王朝が栄えていた。

それは「血を糧とする民」――吸血鬼の一族による、夜の王国。


吸血鬼たちはかつて人と共に生きていたが、

長い年月の中で、人の血を糧とする魔性へと変貌し、やがて恐れと忌み嫌われる存在となった。


人を狩り、人を眷属とし、人を恐怖で縛るその力に、

南方の若き国は、ついに終止符を打たんと決意する。


その先頭に立ったのが、のちに「光の王」と呼ばれる、初代国王フェルナンであった。


聖なる炎を纏った剣と、白銀の騎士団を率いて、フェルナンは吸血鬼の王都へと侵攻した。

数えきれぬ血の夜を越え、遂に王は吸血鬼の王の胸を貫き、その命脈を絶った。


死の間際、滅びゆく吸血鬼の王は、フェルナンに向かい、呪詛の言葉を吐いたという。


「……この血は終わらぬ。

いずれ、そなたらの血に牙が宿る。

人に仇なす力を抱えたまま、光に怯え、影を生きる者が生まれよう。

――その苦しみこそ、我らが魂の報いと知れ。

永遠の夜を拒んだ報いを、そなたらの子孫が味わうがいい」


その言葉は、風に消えた。

吸血鬼の城も、王も、その民も――すべて、炎と剣の果てに塵となった。


けれど、呪いだけは生き残った。


幾世代もの月日が流れ、人々の記憶が神話へと変わりゆく中――

王家に生まれし一人の少年に、“血”が、目覚めた。


名を、エルヴィン・ヴァルモンド。

王の弟にあたり、傍系ながらも、品位と聡明さを併せ持つ、若き王族として知られていた。


だが十五のある夜、何者かに命を狙われ、深手を負い、死の淵に立ったその瞬間――

彼の中で、何かが弾けた。


その瞳は紅く染まり、心には、血を欲する獣の叫びが轟いた。

焼けつくような太陽の光に怯え、闇夜でこそ冴え渡る感覚。


彼は知る。

それは“自分のものではない本能”――

忌まわしき力の残滓が、数百年の時を超えて芽吹いたのだと。


そして王家もまた、気づいた。

始祖の呪いが王家に届いた証。

あの呪いは、終わっていなかったのだと。


吸血鬼の末裔としての宿命と、王家の呪いの結晶。

恐れと混乱の末、王家はエルヴィンに「北方の公爵位」を与え、王都から遠ざけた。


”ノワール”――闇の名を冠する公爵として。


王家は沈黙を貫いた。

“王家の誇り”と“王家の呪い”を、同時に封じたのである。


そして、彼に“封印の仮面”が用意された。

それはエルヴィンの力を封じるために、幾人もの高位魔導士と高位神官の力を合わせて造られた、

封印と誓約の象徴だった。

それでも……封じることができたのは力の半分。


仮面の下にあるのは、人ならざる紅き瞳。


そのすべてを――ひとり、少年は受け入れた。

その紅き瞳の奥に、哀しき覚悟を宿して。


そして十数年後。


公爵のもとへ、一人の少女が現れた。

運命の糸は、ゆっくりと、静かに絡まり始めていた――

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