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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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舞踏会への準備

王宮からの招待状が届いた翌日、エルヴィンは執務室にクラウスを呼び寄せた。

机上に置かれた封筒を一瞥し、仮面の奥で目を細める。


「……舞踏会に出る。準備を整えろ」


その声音は淡々としていたが、内に秘めるのは熱い想い。

リリアが王宮で、どれほどの視線を受けようとも――彼が守ると決めたからだ。


クラウスは深く一礼し、確認を取る。


「……リリア様のご準備はいかがなさいますか?」


エルヴィンは少しだけ沈黙したのち、ゆっくりと口を開く。


「王都から、クラリーチェが認める最高のデザイナーを呼べ。

……私の婚約者には、最上の装いを」


クラウスは主の言葉にわずかに微笑む。

普段は感情を見せぬ公爵が、ここまで静かに気合いを見せるのは珍しい。


「畏まりました。すぐに手配いたします」





数日後――


エルヴィンが呼び寄せたのは、王都でも名を轟かせるデザイナー、オリアとその弟子フェリンだった。

公爵邸に、豪奢な馬車が到着する。

馬車の扉が開き、しなやかな身のこなしの女性が降り立つ。


「王都より参りました、デザイナーのオリアと申します。

こちらは弟子のフェリンです」

二人は深々と一礼した。


「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました」


クラリーチェは落ち着いた微笑みを浮かべ、優雅に頭を下げる。

だが、その瞳には確かな使命が宿っていた。





エリスがリリアの自室の扉を叩く。


「リリア様、本日は、王都から腕利きのデザイナーが参っております。

公爵様が、舞踏会のドレスをと」


「え……?」


驚くリリアに、エリスは笑みを深めた。


「オリア・クレヴァンス、というデザイナーをご存じですか?

クラリーチェ様のご推薦で、公爵様が招聘されました。

リリア様には最高のものを、とお望みでございますの」


「オ、オリア・クレヴァンスっ?!」


リリアは驚きとともに胸が熱くなるのを感じた。

――オリア・クレヴァンス。

流行を作り出すという彼女のドレスは、何年も待ちが出ているというほど。


伯爵令嬢であるリリアがオリアのドレスを望むなど、夢のまた夢だったのに。


(その彼女がこうして屋敷に来てくれるなんて……!)


エリスは頷き、笑顔でリリアの髪を整えていく。


「公爵様が、リリア様をどれほど大切に思われているかの証ですわ。

ふふ。実は、私たちもリリア様を驚かせたくて……内緒にしていました」


「ええっ? そうだったの?!

もう、エリスったら……!」


顔を真っ赤にして抗議するリリアに、エリスは微笑む。

明るい笑い声が、部屋を満たした。


(ふふ。

リリア様はどんどんお可愛らしくなられますね)





リリアが部屋に現れると、オリアは上品に微笑み、腰を折って挨拶を交わす。


そしてリリアをまっすぐ見つめた。

彼女は、”公爵家の婚約者”が、どれほど大切にされているかをすぐに悟る。


「お任せくださいませ。

貴女様に最も似合う、唯一無二のドレスをお仕立ていたしますわ」


程なくして、オリアたちがデザインを広げ、最高級の絹や宝石、刺繍糸も広げる。

クラリーチェとエリスは彼女たちに的確に指示を出し、最上のドレス作りが始まった。


リリアの胸に、またひとつ温かな想いが芽生える。

自分がどれほど大切にされているのか――そのすべてが、この準備に込められているのだと。




窓辺から差し込む光の中、リリアは生地に触れながら、エリスと笑みを交わした。


「本当に素敵な生地ね。

デザインもどれも本当に素敵。

夢を見てるみたいよ、エリス。私に着こなせるかしら……」


エリスはふっと真顔に戻ると、リリアを見つめた。


「……リリア様。

公爵様は、普段あまりお気持ちを表に出されません。

ですが、今回ばかりは違います。

それは、貴女様がそれに値するお方だからです。だから――」


そしてリリアの手をぎゅっと握ると微笑んだ。


「大丈夫です、リリア様!

むしろドレスがリリア様の引き立て役ですから!」


その言葉に、リリアの頬が淡く染まった。


「……っ! エリス……!

ふふっ。ありがとう。

なんだか勇気を貰えたわ」


舞踏会が怖くないと言えば嘘になる。

けれど、エルヴィン様と一緒なら、きっと――。


リリアは静かに決意を固めていくのだった。

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