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姉の代わりに嫁いだら、吸血鬼公爵に溺愛されました  作者: 高梨美奈子


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静かな夜

夕餉の席は、穏やかな空気に包まれていた。


並んだ料理はどれも、厨房の手による心のこもったもので、リリアはひと口ごとに、その味わいを楽しんでいた。


日ごとにこの館の食卓にも慣れ、肩の力が少しずつ抜けてきているのを感じる。


向かいに座るエルヴィンもまた、静かにグラスを傾け、時折リリアに視線を向けていた。

言葉は少ないが、その沈黙さえも、いまは心地よい。


皿が一つ、また一つと下げられていき、最後のデザートに手を伸ばした頃。

エルヴィンがそっと、リリアを見やった。


「リリア。

――今夜、少しだけ時間をもらっても良いだろうか?」


その低く、落ち着いた声に、リリアは手を止め、彼を見返す。

エルヴィンの瞳にはどこか、決意のようなものが宿っていた。


「え?

今夜……ですか?」


「そうだ。話したいことがある。

……無理なら、別の夜にしてもいい」


けれどその声には、“できれば今夜”という想いが、かすかににじんでいた。

リリアは一瞬だけ目を瞬かせると、静かに頷いた。


「はい。お待ちしております」


その言葉に、エルヴィンの瞳がほんのわずかにやわらいだ。

食堂に流れるのは、食器が触れ合う微かな音と、窓の外から届く夜の気配だけ。


淡い蝋燭の光の中で、リリアは胸の奥に小さな鼓動を感じていた。

これから彼が話すことは、きっと、とても大切なことだ。


そう――そんな予感が、彼女の中に灯っていた。 





夜も更けた頃、静けさの中に微かな足音が響き、重みのあるノックの音が静かに響いた。

扉の向こうから感じられる気配に、リリアはすぐに立ち上がった。

胸の奥が、ゆるやかに高鳴る。


エリスがそっと扉を開けた。


現れたのは、漆黒の衣に身を包んだエルヴィンだった。

仮面の奥にある眼差しは、いつもよりも深く、静かな決意を湛えているように見える。


「リリア。

……入ってもいいか?」


「エルヴィン様。

ええ、もちろんです」


「失礼する」


リリアの一言に、エリスは頭を下げると、公爵を部屋の中へと迎え入れた。

暖炉の火が柔らかな灯を投げかける。


「エリス、もう休んでくれていいわ。

今夜は少し、公爵様とお話があるの」


リリアの声に、エリスはすぐに柔らかく微笑むと頭を下げた。


「かしこまりました、リリア様。

何かございましたら、すぐにお呼びください」


そっと扉が閉まり、室内はより深い静寂に包まれる。


窓辺のテーブルには、あらかじめ用意していたティーセットが並んでいる。

リリアは紅茶を丁寧に注ぎ始めた。

湯気が静かに立ちのぼり、香り高い茶葉の香気が部屋に満ちていく。


その手元は落ち着いていたが、心のうちはわずかに揺れていた。

エルヴィンが今夜ここに来る、と告げた時から、ずっと胸の奥がざわついていた。


その背を、エルヴィンは黙って見つめていた。

やがて、カップを手に戻ってきたリリアが、彼の前にそっと置く。


彼に向ける笑みは穏やかだった。


「お口に合うと良いのですが……」


エルヴィンは、ひとつ頷く。


「ありがとう……リリア」


リリアは微笑みながら、彼の向かいに静かに腰を下ろした。

この部屋に二人きりでいるという状況に、どこか緊張を覚えながらも――彼の声の温度に、わずかに心がほどけるのを感じていた。


二人の間に落ちる沈黙。

やがて、エルヴィンは静かに口を開いた。


「――リリア。

君に……話さなければならないことがある」


低いその声に、リリアは無意識のうちに、ゴクッと唾を飲み込んでいた。

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