8 私の父親
夕食の時間になると、リタがスープとパン粥を持って来てくれた。
フワフワと口でとろけるパン粥は、体全体に染みわたり、体を温めてくれるようだった。
また、自分の力で食事を摂ることができるなんて、どれくらいぶりだろう。
自分の口から入る食事って、こんなに美味しかったんだな。
出された食事を食べ終え、リタが食器を下げ部屋を出て行ったのと入れ替わりに男性が入ってきた。
この人がアイリスの父親。
名前は・・・えっと、オリヴァー・ノワール。
「体調を崩したと聞いたが、もう元気そうだな。」
表情を変えることなく、上から見下ろしている。
「はい。」
「入学試験が終わった途端にこれでは先が思いやられる。お前は王妃になるのだ。もっとしっかりしてもらわないと困るんだがな。」
母親と同じことを言った。
「その王妃教育も遅々として進んでいないというではないか。それにあの試験の結果はなんだ。」
「なんだ、と言われましても。」
私が入学試験を受けたわけじゃないから、知るはずもない。
「この国の、4大侯爵家の娘が、Cクラスだと?最高峰の家庭教師もつけてやったというのに、その体たらくはどういうことだ。私の力をもってしても、Aクラスに編入させるのが精一杯だった。殿下はSクラスだというのに。お前はなにをやっている!」
病み上がりの私に、厳しい叱責を向ける父親。
アイリス・・・どれだけ勉強をサボっていたの。
今の話からしても、その学園は成績順にクラスが決められているようだ。
それにアイリスの実力はCクラス、それを権力でAクラスに編入させるなんて、アイリスが苦労するに決まってるじゃない。
「お前は、殿下の婚約者だ。相応しくないとされたら、蹴落とされるのだぞ。そんなことになろうものなら、このノワール家の権威は失墜してしまうではないか。少しはその自覚を持て。」
この父親も、娘の体調より、権力が一番大事らしい。
「はい。申し訳ございませんでした。」
そして、また心臓がギュッと痛くなる。
「明日は殿下が見舞いに来られる。くれぐれも失礼のないようにな。」
「殿下が、ですか?」
「そうだ。婚約者が臥せっているのに見舞いにくるのは当たり前だろう。」
どうせ、あなたがごり押ししたんでしょう。
婚約者を見舞わないとなれば、なにを言われるかなんて想像がつくもの。
いつの間にか心臓の痛みは消え、その代わりに体中が歓喜の感情に満たされていた。