79 そして私の最後
私は、クリス様がいらっしゃる隣の部屋をノックする。
少し疲れた顔をされたクリス様が迎え入れてくれた。
「あやめ、どうしたの?夕食にはまだ時間があるけど・・・。元の世界に帰ることに決めちゃったのかな。」
クリス様が寂しそうな顔をされた。
動け、私の足。
私の想いをクリス様にお伝えするんだ。
私の想いなど迷惑かもしれないけど、私は、クリス様のお側にいたい。
「あやめ?どう・・・」
クリス様が言い終わらないうちに、私はクリス様に抱き着いた。
「クリス様・・・私のことは、お嫌いですか。アイリスではないからダメですか。」
「なにを・・・」
「私は、クリス様をお慕いしています。クリス様と離れたくはありません。お側にいてはダメですか。」
クリス様が私を力強く抱きしめた。
「あやめ・・・ダメだよ。そんなことを言われたら、僕は君を帰せなくなる。君は二度と向こうには帰れなくなるんだよ。」
「あの機械に繋がれた私に帰ったとして、私に幸せはありません。私の幸せはクリス様の側にいることなのです。力を使わなかったら、まだ共にいられるのでしょう?クリス様は消えないのでしょう?私は私の最期の時まで、あなたのアリスでいたいのです。」
「あやめ・・・。僕はアイリスよりたくさんの時間を君と過ごした。僕にとってのアイリスは、君だ。アリス、本当にそれでいいんだね。僕は・・・アリスの全てが欲しい。僕に君をくれるかい?」
「クリス様、私たちはすでに夫婦ですよ。今さらそんな・・・」
「ああ・・・・そんなことを言われたら・・・。もう、だめだ。ごめん、アリス、優しくする。」
クリス様はそのまま、ベッドに私を押し倒す。
クリス様の顔が近づいて、私に口づけをする・・・何度も、何度も。
時には慈しむように、時には奪うように。
「アリス、可愛くておろかな僕のアリス。僕たちが一つになってしまったらもう後戻りはできないよ。いいんだね?」
私は黙って頷く。
「待ってと言われても、もう待たないよ。僕はずっと・・・君が欲しかったから。」
くすっと笑って、私の服に手をかけていく。
恥ずかしさのあまり、ギュッと目を閉じてしまう。
「アリス、とても綺麗だよ・・・大丈夫だよ。ほら、僕をちゃんと見て。怖くないよ。僕の首に手を回して。僕のことも抱きしめて。」
クリス様の鍛えられた肉体が目の前にあった。
言われるがままに首に手を回す。
「夢みたいだ。アリスが僕を受け入れてくれるなんて。アリス・・・愛しているよ。」
「クリス様・・・私も、クリス様を・・・」
息も絶え絶えに、必死で言葉を紡ぐ。
クリス様の息遣いに、その熱い指先に、思考が溶けていくようで、もう、なにも考えられない。
私の中心に、クリス様が楔を打とうとしている。
「あっ・・・クリス様・・・」
「アリス、愛している。君の全てを貰うよ。」
「君の魂も―」




