77 答え合わせ
クリス様の口から、アイリスが処刑された後のことが語られる。
聖女様が殺されたことで、国は大混乱に陥ったこと。
その最中、東のイシュタル家が中心となり反乱を起こし、クリス様が次期国王となったこと。
さらに、内政の安定していない隙を帝国につかれ、攻め込まれたこと。
ノワール家は・・・私の罪により、血族は全員処刑されたことも。
「僕の、イシュタル家の悲願は果たした。でも、僕は全然満たされなかった。」
「それはどうしてかお聞きしても?」
「きっと、僕が欲しかったものが、アイリスだったからだよ。」
そう言うと、いつもの優しい笑みを私に向けた。
「僕は間違いを犯した。アイリスはてっきり王妃になりたいんだと思ってた。だから、エドウィンの側妃になるより、いずれ王となる僕を選んでくれると思って声をかけた。」
ああ、最初にお会いした時に、図書室で言われたこと。
「君が聖女に手をかけるなんて、思いもしなかったんだよ。君はただ純粋にエドウィンを好きだったんだね。僕はそれに・・・気付きたくなかったのかな。そのせいで、あんなに長い間君が苦しむなんて思いもしなかったんだよ。」
「クリス様は、何故そのことを・・・」
「王宮の地下には立ち入り禁止の区域があるって前に言ったね。そこには王家の者しか扱えない聖剣があることも。そして、王家の者にしか発動できない禁術があるんだよ。」
「禁術とは・・・いったい・・・。」
「アクオス王家の者だけが使える禁術。地下に祀られている聖剣を使い、自らの寿命を代償に・・・一度だけ時を巻き戻すことが出来る。」
「そ、そんな禁術があるのですか?それでは、クリス様は・・・。」
「帝国に攻めこまれ、後がないと悟った時に禁術を使うことに決めた。僕はアイリスに会いたかった。すべてをやり直して、今度こそ、アイリスを幸せにしてあげたかった。だから迷いはなかったよ。術は成功し、時は巻き戻ったけど、女神の怒りに触れた君だけは、巻き戻らなかった。」
「それでは・・・」
「命をかけたのにさ、その時の絶望ったらなかったよ。そんな僕を助けてくれた者がいてね。その者に導かれ、まずはアイリスの魂を探すことにした。そしてようやく、『あやめ』に出会えたんだよ。アイリスと同じ名前を持つ君にね。」
「なぜそこまでして・・・」
「僕がアイリスの魂を見つけて、あやめに出会うまで、500年くらいの時間を渡ったのかな。君の惨い死を散々見せつけられて、もう気が狂いそうになった。僕は、君に・・・君の魂に、あんな未来を歩ませるつもりなんてなかったんだ。君には幸せになって欲しかった。」
クリス様が、悲痛な顔をしていた。
「だから、その者と賭けをした。これは最初に君に説明した賭けの内容だね。そして今、あやめは賭けに勝った。これから先の君の魂は、寿命を全うして、穏やかな死を迎えることができるよ。」
「それでは、クリス様は、どうなるのですか。」
「僕に残された力と時間はそう多くない。あやめを元の場所に帰したら、僕という存在は消えてしまうかもしれないね。」
クリス様は、少し困ったように笑った。




