74 謁見
リスティア帝国に着いた私たちは、騎士の案内のもと、客室へ通される。
アクオス王国は、歴史の長い国であり、王宮も昔ながらの意匠が施され、女神をモチーフにした絵画が飾られるなど、歴史を感じさせる建物であるが、ここは違う。
無駄な装飾は一切ないところは、どこかノワール家を思い出させる。
「ジェラルド皇帝が入られます。」
護衛騎士の言葉に、私たちは立ち上がり、皇帝を出迎える。
「ようこそ、我がリスティア帝国へ。私が皇帝のジェラルドである。面をあげよ。」
リスティア帝国皇帝のジェラルド様のお言葉に従い、クリス様が顔を上げ、私もそれに続く。
「お初にお目にかかります。アクオス王国より参りました、クリスティン・イシュタルでございます。こちらは妻のアイリス。本日はお忙し・・・」
「そのような御託はいらぬ。まあ、座れ。」
「はっ、それでは御前失礼します。」
ジェラルド皇帝は、御年20歳。
若くして皇帝の座を継がれ、以降、近隣諸国を次々と従え、抵抗する者には容赦がない。
眼光鋭く、歴戦の猛者、という雰囲気をお持ちの方だ。
「ジェラルド皇帝陛下、それでは単刀直入に。アクオス王国をどうなさるおつもりですか?」
「どう、と言われてもな。何が言いたい。」
「リスティア帝国のもと、この大陸を統一されるおつもりで?」
「だとしたら、どうするというのだ?」
ジェラルド皇帝が、ニヤリと笑う。
「アクオス王国は、女神に愛されている国。かの同盟国のように、易々とは落とせませんよ。」
「ほう・・・女神とな。ならば、女神ごと喰らってやるまで。神が国を造るのではないことを証明してみせようぞ。」
「さようですか。それはなによりです、皇帝陛下。そのお言葉を聞きたかった。」
「なんだと?」
「我がアクオス王国は、緩やかに滅びの道を進んでおります。攻めるなら今かと。」
「はっ。それでお前が属国となった国の王になると?クリスティン第二王子よ。」
「私は王になるなつもりなどありませんよ、皇帝陛下。まあ、今の王家に恨みがあるのは確かですがね。」
「なるほどな・・・王国を失くしてしまえと、お前はそう言うのだな。」
「ええ。今の王国は一枚岩ではありません。この機会をみすみす逃すほど愚鈍な方ではないと思っていましたが?」
『アリスは僕の指示があるまで、黙っているように』と言われていたが、このような口の利き方をして大丈夫なのだろうか。
クリス様のお考えがあっての発言であろうが、立てかけてある剣の切っ先が飛んできそうで、とても生きた心地がしない。




