70 永遠の愛、永遠の命
お兄様と過ごす日々はとても楽しくとても幸せで、あっという間に時間は過ぎる。
気付けば、今日は学園の卒業式の日となっていた。
ノワール家でお祝いをしてくれるとのことで、今日は朝から使用人たちが忙しそうにしている。
私も、なにか手伝えることがないかと思い、屋敷をウロウロしていたのだが、
「今日の主役はお嬢様ですから!ダメですよ。大人しくじっとしていてください!!」
と、部屋の中に押し込まれるだけであった。
屋敷の中にいても邪魔になるだけだと思い、ガセボに赴き、一人で静かに過ごしている。
少し寂しい気もしたが、皆の心遣いはとても嬉しい。
そういえば・・・あれからクリス様にお会いしていないが、お忙しくされているのだろうか。
体調など崩されていないだろうか。
「お、お嬢様~、アイリスお嬢様。急ぎこちらへ。」
リタが慌てた様子で、私を呼びに来た。
「リタ、どうしたの?なにかあったの?」
「お客様がお見えになりましたので、お出迎えを。」
お客様?今日のお祝いの席に、誰かをお呼びしていたのだろうか。
お兄様からはなにも聞かされていない。
「やっぱりここにいたんだね、アリス。」
その声は・・・クリス様?
「クリス様・・・どうしてこちらへ。はっ、お出迎えもせず大変申し訳ありません。」
「ふふっ。待ちきれなくて僕が来ただけだから、気にしないで。」
そう言うと、クリス様は私の隣に座られた。
リタが、クリス様に紅茶を淹れ、一礼してから下がる。
「これ、アリスの卒業証書。あらためておめでとう。」
制服と同じ紺色の装丁がされた、卒業証書を手渡された。
「クリス様・・・もしかして、このためにわざわざ?」
「いいや、違うよ。今日はノワール家から正式に招待をされてね。爺さんも一緒に来てるよ。」
「ライアンおじい様もですか?」
「うん。爺さんの相手はルーク義兄上がしてる。これで僕たちを邪魔する者は誰もいない!アリスと二人きりでゆっくりできるよ。」
お兄様の不機嫌なお顔が目に浮かぶ・・・。
「邪魔者がいない隙に、アリスにもう一つ渡したいものがあって。」
クリス様はポケットの中から、小さな箱を取り出した。
その箱を開けると、そこには赤く輝く宝石がついた指輪があった。
「アリス、これは僕からの気持ち。瞳の色を模した宝石を送るのが普通だけど、僕はほら、このとおりだからね。イシュタル家の家紋であるこの色にした。受け取ってほしい。」
侯爵家の家紋には、それぞれ色の特徴がある。
イシュタル家は赤、ノワール家は黒、南のサリオン家は青、西のウィンダム家は緑。
クリス様の紫の瞳の色は、王家の色。
それは、王家に連なる公爵家と王家の色であり、侯爵家以下の貴族が意匠に使用することはない。
「クリス様・・・このように高価なものを・・・嬉しいです。ありがとうございます。」
「ああ、ほら泣かないで。アリス、手を出して。」
差し出した私の薬指に、深紅の指輪が嵌められる。
「やっぱり良く似合う。この宝石の意味は『永遠の愛』、『永遠の命』。僕の命がある限り、君を愛することを誓うよ、アリス。」
クリス様は、私の手を取り、その宝石に誓うように口づけをした。




