7 私の母親
「リタ、言いにくいことを答えてくれてありがとう。最後に一つ教えて。私には婚約者がいるのよね。」
リタはハッとした顔をした。
「はい。この国の第一王子であらせられる、エドウィン殿下がお嬢様の婚約者にございます。」
「その婚約者様から、なにか届いている?」
「そ、それは・・・」
その言葉で、ハッキリとわかった。
その王子様も、アイリスとの婚約は望んでなかったことだったんだ。
侯爵家であるノワール家の後ろ盾が必要だったか、それとも父が更なる権力を求めてごり押ししたのかのどちらかなんだろう。
「お嬢様、本当に大丈夫ですか?まだ具合がよろしくないのでは・・・。侍女の私ごときにお礼を言うなんて・・・」
「リタ、今までさんざん我儘を言って悪かったわ。そうね・・・高熱でうなされて嫌な夢ばかり見ていたみたい。人として道を踏み外さないようにって、女神さまからの忠告かしらね。」
「お嬢様・・・」
そんな時、ドアを開ける音がした。
「アイリスが目を覚ましたって聞いたわ。もう大丈夫なの?」
亜麻色の髪をした煌びやかな女性が、部屋に入ってきた。
「奥様、お帰りなさいませ。」
リタが慌てて頭を下げる。
この人がアイリスの母親・・・。
確か、名前は・・・カメリア・ノワール。
娘が一週間も臥せっていたというのに、自分はオシャレをしてお茶会に行くような女性。
病院でずっと付き添ってくれいていた母を思い出し、嫌悪感を覚えた。
それでも、私の中のアイリスは、母親の登場に喜んでいるようだった。
「アイリス、自分の健康管理はしっかりとなさい。そんなことでは足を掬われてよ?あなたは王妃になるの。そのために私たちがどれだけ苦労したと思っているの?それに、来週は学園の入学式も控えているのよ。本当にあなたは昔っから・・・もっとしっかりしてちょうだい。」
「奥様、それは・・・」
「リタ、あなたは黙ってなさい。」
「も、申し訳ございません。」
また、心臓が鷲掴みにされるように痛む。
「お母様、申し訳ありませんでした。もう熱も下がりましたから大丈夫です。」
ベッドで横になりながら言っても、説得力はないと思うけど。
アイリスの母親は、私の言葉を聞いて、フイっとそっぽを向き、部屋を出て行った。




