67 卒業試験
「それでは、只今より試験を開始します。不正行為が認められた時点で無効となりますので注意してください。それでは、始め。」
学園の教師数人に見守られ、クリス様と私は、今、卒業試験を受けている。
進級試験を受ける生徒たちに影響を与えないように、日程はずらされ、少し早めの試験日となった。
「アリス、僕たちはできることはやった。ルーク義兄上の厳しい指導も課題もクリアしてきた。きっと大丈夫だよ。平常心、平常心。」
緊張でガチガチになっていた私に、クリス様が優しく声をかけてくれた。
私も、今までの短い人生の中で、一番勉強をした。
なんなら、日本で高校受験をしたとき以上に勉強した。
試験日が近づくと、領地にいたお兄様まで王都に来てくださり、直前までつきっきりで教えてくれた。
大きく深呼吸を一つして、問題に挑む。
共通学科は、それほど難しいものではない、これなら大丈夫。
専攻である経営学科は、いくつかの問題文と、論文であった。
1年生の課題は、自分の領地について。
2年生の課題は、領地の発展に必要なこと。
3年生の課題は、結局やらずじまいだったが、お兄様の話によると王国の発展に必要なこと、らしい。
卒業試験の論文の内容は、3年間の課題を踏まえ、今後のアクオス王国の方向性とその政策、というものであった。
私たちの動向如何で、この国が亡びるかもしれないという時に、なんとも皮肉な論文である。
「はい、そこまで。これで試験は終了です。結果は後程お知らせします。お二人ともお疲れ様でした。」
・・・・・・終わった・・・。
共通学科の問題は、見直しする時間もあったし、きっと大丈夫。
問題は論文のほうだが・・・これは、どうなるかわからないが、私の持てる全てをぶつけた。
クリス様は、きっと卒業試験もパスされるであろう。
もし不合格だったら・・・私はどうしたらいいのだろうか。
学園を卒業することが私のもう一つの目標でもあったが、エドウィン殿下と共に卒業となると、あの側妃の話が現実味を帯びてくる。
しかし、学園を退学したとあっては、クリス様のお側に立つには相応しくない。
「ア~リ~ス、そんな悲壮な顔してどうしたの?」
「クリス様・・・いえ、もし不合格だったらどうすればいいかと、急に心配になりまして・・・」
「アリスはさ、この学園を卒業したい?」
「以前はそう思っていましたが、今はそこまで固執はしておりません。でも・・・」
「ん?でも、どうしたの?」
「次期侯爵になられるクリス様のお側にいる私が、学園を退学したとあっては体裁が・・・」
自分の制服をギュッと掴む。
「そんなこと気にすることないよ。確かに、この王国では学園を卒業することはステータスに繋がるけどね。そんな些細なことが話題になるのは王宮内と王都での社交の場だけだよ。それに、諸外国では王国の学園卒業なんて、大した話題にならないからね?」
「そ、そうなのですか?」
「そうだよ。学び直す機会なんて、生きているうちはいくらでもある。全てが落ち着いたら、どこかに留学してみるのもいいかもね!だから、結果のことはそんなに心配しないの!」
「・・・クリス様、お心遣いありがとうございます。」
エドウィン殿下から言われたことは、クリス様にはお話していない。
これ以上、王家とイシュタル家の間に、余計な火種を作るわけにはいかないと思ったからだ。
私が卒業試験をパスすればいいだけのこと。
あとは・・・運を天に任せるだけだ。




