66 王家の秘密
「王家に伝わる話ですか?それは私が聞いてもいいことなのでしょうか。」
そんな秘密を聞いてしまったら、王家が黙っていないのではないか。
「ん?だって、アリスは僕のお嫁さんでしょう?なら教えても問題ないよ。え・・・まさかとは思うけど、僕の側から離れるつもりなの?」
「そ、そんなことは考えていません。ただ、知ってしまったらお咎めがあるのではないかと、少し心配になっただけです。」
「ははっ。心配することはないよ。ただ僕との結婚が絶対になるだけ。アリスも可哀想に・・・どんどん外堀を埋められて、もう僕から離れられなくなっちゃったね。」
学園での私たちの動向は、王家の影が把握するはず。
それをわかってて、お話しされるのですね。
「僕はズルい男だからね。こうでもしないと、アリスがどこかに行っちゃいそうで心配なんだよ。」
そんな寂しそうな顔で、そんなことを言われたら、聞くしかない。
クリス様は・・・私の気持ちを知ってなお、そういうことを・・・。
まさか、私が本物のアイリスではないことに気付いてらっしゃる?
・・・もしかしたら私の態度に滲み出ているのかも・・・これまで以上に気をつけなくては。
「クリス様、もしかして私のことを疑ってらっしゃるのですか?」
「それは違うよ、アリス。決して不信なんかじゃない。僕は・・・自分に自信がないんだ。だから、どういう手段を使っても君を繋ぎ止めたくて必死なだけ。アリスのことが好きで仕方ないから。」
「な、な・・・こ、こんなところでなにを仰って・・・揶揄わないでくださいませ!」
「ほらほら、図書室では大声を出したらいけないよ。真っ赤になって可愛いな、アリス。揶揄うだなんて君こそ失礼だな。僕はいつでも本気なのに。じゃあ話すけど、いい?」
クリス様が声のトーンを落として、私の耳に口元を寄せる。
王家の秘密の話を、誰かに聞かれるわけにはいかない。
しかし、これではまるで、恋人同士が密かに愛を囁き合ってるような姿ではないか。
いたたまれなくなった私は、ただ頷くので精一杯であった。
「その書物には書かれていないけどね。王宮の地下には、不浄の者とやらを封印した聖剣が実在するんだよ。」
「えっ・・・。」
「僕が実際に見たことがあるのは一度だけ。それは王家の者にしか扱えないんだって。でもそれに触れると災いが降ってくるらしいから、絶対触ってはいけない。王宮はその聖剣の存在を隠すように建てられたらしい。聖女は、その聖剣を守るために定期的に現れて、祈りを捧げている、って話だよ。」
「それでは、この建国記に書かれてあることは、真実なのではないですか?」
「さあ、どうだろうね。どこまでが真実で、どこまでが創作かなんて、僕たちには知る由もない。」
「しかし、聖女様が定期的に降臨されるのは事実です。」
「その聖女もさ、本当はなんのために現われて祈りを捧げているのか、はたして正しい歴史が伝わっているのかも、今となってはわからないよね。」
「確かにそうですが・・・でもそれにしては・・・」
とたんに不安になった私に、クリス様がニッコリと笑いかける。
「アリス、王妃教育をサボってて良かったね。」
「そんな不名誉なこと・・・何故かお聞きしても?」
「王妃教育でこの話を聞いていたら、第一王子からは逃げられなかったよ。僕の母上と同じように側妃となって、離宮に閉じ込められていたと思う。」
この時ばかりは、勉強嫌いだったアイリスに感謝しかなかった。
そして、エドウィン殿下が仰っていた違和感のことなど、すっかりどこかへ消えていた。




