65 嘘と真実
「卒業試験が迫っているという時に、熱心になにを読んでいるのかな?アリス。」
背後から声をかけられ、ハッとした私は、読んでいた本から手を放してしまった。
クリス殿下がその本を拾って、いぶかし気な表情をされた。
「アクオス王国建国記・・・?」
「クリス様、少し気晴らしにと思って・・・。お手を煩わせて申し訳ございません。」
「いや、突然声をかけた僕が悪かったね。また、どうしてこんな本を読んでいたの?」
「恥ずかしながら、昔の私は勉強が得意ではなかったもので・・・。きちんと読んだことがなかったのです。なぜ、王国は聖女様をあれだけ大切になさるのか、ふと疑問に思いまして・・・。」
「ははっ。そういえば、王妃教育もよく逃げ出してたんだっけ?それで、改めて読んでみてアリスはどう思ったの?」
アクオス王国の成り立ちが、この通りだとしたら・・・平和を守るために遣わされた聖女を殺したアイリスは、処刑どころの話ではない。
アイリスは、この建国記をちゃんと読んで、理解していたのだろうか。
この国の平和より、エドウィン殿下を取られたくない気持ちが勝ったなど信じられない。
「そうですね・・・あらためて聖女様が王国にとって大事な存在というのがわかりました。」
「その話が本当なら、だよね。」
「どういうことですか?クリス様。」
「う~ん・・・外国の書物をいろいろ読んで思ったんだけど、歴史を書いているのは常に勝者側じゃない?だからさ、都合のいいように書き換えてる部分も多いと思うんだよね。」
なるほど、クリス様の言うことにも一理ある。
「それに、神話の形をとるなんて常套手段でしょう?もしかしたら、英雄デュランは侵略者だったかもしれないよね。それを『神の遣い』とかなんとかで正当化しているのかも。」
この時代がいつで、どこの国かはわからない。
それでも、私、あやめがいた時代よりは遥か昔の時代のはずだ。
それなら、神様とか超常的な存在を信じ、崇め奉る人がより多いはず。
クリス様は、随分と先進的なお考えをお持ちの方のようだ。
「そういう見方もあるのですね。でも、クリス様もアクオス王家の方。それではご自分の祖先を・・・」
「その英雄もさ、本当はアクオス王家の始祖じゃないかもしれないよ?だって1000年も前のことだよ?誰も証明なんかできないよ。」
「そう言われたら身も蓋もありませんわ。しかし、この国の民が、それを信じて心の拠り所としている。この事実が大切なのではありませんか?」
「ふふっ。アリスは大人だな~。僕の考えを否定しない人なんて初めてだ。確かに、アリスの言うことは間違いじゃないよね。心の拠り所、信仰心はとても大事なものだよね。そんなアリスに、王家にだけ伝わる話を教えてあげるよ。」




