64 アクオス王国建国記
遥か昔、この地に不浄の者あり。
その者、人間の魂を喰らう者にて、多くの命を喰らい生き永らえてきた魔物なり。
その地は厚い雲に覆われ、漆黒に染まり、光も届かず、草木の一本も生えぬ土地となる。
不浄の地に捕らわれた人間は、もはや逃げることも叶わず、恐怖に怯え、嘆くことしかできぬ。
ただ死を待つばかりの、陰惨とした暗黒の時代なり。
ある時、天より一筋の光と共にその地に降り立つ者あり。
まばゆい剣を携え、女神と共に降臨した、その名はデュラン・アクオス。
神が遣わした、英雄である。
英雄デュランは、七日七晩の死闘の末、遂にこの不浄の者を封印す。
暗く厚い雲は瞬く間に消え、空から眩い光がさしこむ。
女神の息吹により、生物は息を吹き返す。
一つ息を吹けば、泉から清涼な水が湧きだし、川を作り、
また一つ息を吹けば、汚れた土地は浄化され、緑が蘇る。
そして、不浄であった地は、この大陸でもっとも豊かな大地となった。
女神は英雄デュランに告げる。
「デュランよ、あなたはこの地の王となりなさい。私の祈りが途絶えぬよう、私の意志を継ぐ者を遣わせましょう。この地に生きる民を、私の祈りを継ぐ者を守りなさい。私の祈りが正しく届く間、この地は未来永劫守られるでしょう。」
そう言い残し、女神は天へと帰られた。
そして、英雄デュランは人間の王となった。
これが、アクオス王国の始まりである。
女神を讃えよ。
この地を守る女神を讃えよ。
その祈りが、1000年の悠久の平和を守りゆく。
― アクオス王国建国記 第1章 ―




