59 プロポーズ
「ああ、新しい年になったね。こうしてアリスと過ごせて僕は幸せだよ。」
「クリス殿下・・・それは私も同じです。それに、ライアンおじい様にも受け入れていただいて・・・本当に幸せに思っています。」
クリス殿下がくすっと笑った。
「アリスが幸せなら、僕も嬉しい。それにもう手袋をつけてないのがもっと嬉しいよ。」
「クリス殿下・・・ありがとうございます。」
「うん。ここはもう僕とアリスの家になるからね。そのための話を少しいいかな?」
クリス殿下の家になる?
私の事情を鑑みて、結婚後はイシュタル家に入ってもらうという話はされていたが、クリス殿下はそのまま王宮に残られるものだとばかり思っていた。
それは・・・まさか、クリス殿下が王家から離れる、ということだろうか。
「僕は、学園を卒業したら臣籍降下して、このイシュタル家を継ぐ。アクオス姓からイシュタル姓となる。もう王家の者じゃなくなるけど、アリスはそれでもお嫁さんに来てくれる?」
クリス殿下が、心配そうな表情をされた。
クリス殿下は、私が王室の一員になることを望んでいると、未だに思っていらっしゃるのだろうか。
それとも、私の気持ちをお試しになっているのだろうか。
「私は、クリス殿下に嫁ぐことを決めたのです。どんな姓であろうと関係ありません。それに、姓が変わろうと、あなた様はあなた様ではないですか。」
「・・・試すようなことを言ってごめん。うん。そうだね。僕は僕だ。君のことを大切に思っている、ただのクリスティンだ。ありがとう、アリス。」
そう言って、私の黒髪を優しく撫でる。
「アリス・・・実は帝国が動き出してね。急ぎ学園を卒業しなくてはならなくなった。イシュタル侯爵として帝国と交渉に入るためにね。」
「それは・・・それでは、卒業試験を早められるということですか?」
アクオス王国では、主に貴族は学園を卒業し成人と認められる。
そして、成人すると家を継ぐ資格が与えられ、結婚も許される。
ただし例外もあり、事故や病気などで、現当主が執務を続けることが難しくなった場合、学園の卒業を条件に家を継ぐ資格が与えられる。
とはいえ、卒業試験や進級試験をパスしなければ、飛び級は認められない。
さらに、学園を飛び級で卒業したとしても、男女どちらかが成人してなければ結婚は認められない。
クリス殿下は、今年学園に入学され、1年で卒業されるということだ。
そして私は、クリス殿下のいなくなった学園で、また1年を過ごすことになる。
まだ1年にも満たないというのに、クリス殿下と一緒にいることに慣れてしまった。
これから先、またあの1人の学園生活に・・・私は戻れるのだろうか。
「それでね、君を学園に一人残しておけないから、一緒に学園を卒業しようか。」
「え・・・?」
「だからね、君も、僕と一緒に卒業試験を受けて、一緒に卒業しよう?そして結婚しよう。」
クリス殿下のお言葉に、なにを言われているのか理解が追い付かない。




