55 追及
「僕が今話せることはこのくらいかな。まだ話せないこともあるけど、それはまたおいおいね。」
それは私も同じことだ。
私が何故、聖女様を殺めないように避けているかなんて、言えない。
「クリス殿下の御心のままに。私はその時をお待ちしております。」
「アリスは、少し聞き分けが良すぎない?でも、そうしてくれると有難いよ。国が絡むことだし、不確定要素もあるからね。」
「承知しております。私に何かできることがありましたら、言ってください。」
「ほら、また~。じゃあ、僕のことはあらかた話したから、次はアリスのことを聞かせてもらおうかな。」
クリス殿下が、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
・・・いやな予感がする。
「アリス、学園に入学してからずいぶん変わったじゃない。それはどうして?」
やはり、それを聞かれるのか。
ここで、『あやめ』がカミサマに導かれ、『アイリス』の体に入り込んだなどと言おうものなら、頭がおかしくなったと思われるに決まっている。
クリス殿下には、嘘をつきたくないけれど、今はまだ真実を話すわけにはいかない。
いつかは聞かれることだと思っていたので、事前に準備していた言い訳を話す。
「笑わないで聞いていただけますか?」
「もちろん。やっぱり、なにかきっかけがあったんだね。」
「実は、入学試験を終えた頃、体調を崩し、高熱で一週間寝込んだことがあったのです。その時に嫌な夢を見まして・・・。」
「嫌な夢?それってどんなもの?」
「今となっては恥ずかしい話ですが、エドウィン殿下に近づく女性に嫌がらせをしていたことは、クリス殿下もご存知ですね?」
クリス殿下は黙って頷く。
「あまりにも酷い振る舞いが過ぎて、私は処刑されたのです。断頭台にたち、自分の首が落とされる夢です。目を覚ました私は、とても怖くなりました。あのままの私だったらそうなるぞ、とカミサ・・・、いえ、女神様の忠告だと思いました。浅ましい話ですが、自分の命が惜しくなったのです。エドウィン殿下と共にいるからダメなのだと、ならば離れようと、そう思ったのです。」
「そんな夢を・・・。それは怖かっただろうね。」
「距離を置くようになって、経営学科を専攻して、私の世界はとても狭いことを知りました。以前の私は、エドウィン殿下が全てだったのです。久しぶりにお兄様にお会いして、それからクリス殿下にお会いして、今まで見てこなかったものを見るようになって・・・。今はこの決断をして良かったと心から思います。」
「アリス・・・そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあもう一つ教えて。君はいつも手袋をしているよね。領地以外にいるときにはずっと。それはどうして?」
「それは・・・」
王妃様には、『日焼け防止』ということにしていた。
私に興味のない王妃様だから、通用した言い訳だ。
ファッションの一部とか、ただ好きだからとかでは、クリス殿下にはきっと通用しない。




