43 初めてのお茶会
お兄様は、有言実行、その日はずっとクリスティン殿下とご一緒に過ごされたようだ。
私がクリスティン殿下とお会いしたのは、夕食の時くらい。
心なしか、お兄様は生き生きと、クリスティン殿下がげっそりとしていたように見えたのは、私の気のせいだろうか。
翌日、朝食を終えた私は、庭のガセボで読書をしていた。
王妃様の庭園のような華やかさはない。
食用のもの、薬の材料になるものが多く、実用的で素朴な庭園。
それでいて、この北の領地のように、とても落ち着く空間。
ここで読書や刺繡をして、静かに過ごす時間も、私のお気に入りだった。
そのガセボにクリスティン殿下がいらっしゃった。
「アイリス先輩・・・ようやくアイリス先輩との時間をもぎ取ったよ~。」
「クリスティン殿下、大変お疲れ様でした。紅茶でよろしければお飲みになりますか?」
「僕もやることができたからね。急ぎ戻らなきゃいけなくてね。でも、君との時間は大事にしたいから、一杯だけご馳走になろうかな。ごめんね。」
「そんな・・・こちらこそクリスティン殿下にお忙しい思いをさせてしまい、申し訳ございません。」
「謝らないで。王都に戻ったらまたゆっくりね。ねぇ、僕たち新学期にはもう婚約者だよね。」
「え?あ、ああ・・・そう、なのですか?」
「そうだよ。だからね、僕のことはクリスって呼んで。僕もアイリスって呼んでいい?」
え、そうなの?
そんなにすんなりといくものなの?
「そんな・・・私のことはお好きに呼んでいただいて構いませんが・・・殿下のことは・・・」
「本当はリズって呼びたいんだけどね。上で見ている義兄上になにされるかわからないしねぇ。」
そう言って、口を尖らせるクリスティン殿下。
「あ・・・ねぇ、僕たちの名前って似てない?」
「え?」
「ほら、『クリス』と『アイリス』。『リス』がお揃いだ。面白いね!じゃあさ、僕は君のこと『アリス』って呼ぶよ。だから、アリスは、僕のことはクリス、って呼ぶこと。これは決定事項です。」
許可もしていないのに、もう『アリス』って呼んでる。
「クリスティン殿下は・・・」
ジトっと睨まれた。
「えっと・・・クリス殿下でお許しいただけますか。その・・・だんだんに慣れていきますから。」
「仕方ないな~。じゃあ、今はそれで許そうかな。ああ、もう行かなきゃ。名残惜しいけどまた王都でね、アリス。」
「クリス殿下、道中くれぐれもお気をつけて。また学園でお会いできるのを楽しみにしております。」
「そうそう、サプライズプレゼントも用意しているから、楽しみにしてて。それじゃあね。」
クリス殿下は紅茶を飲むと、慌ただしく帰られた。
そういえば・・・私が押しかけないお茶会なんて初めてだ。
クリス殿下は、私がお茶会に誘っても、嫌な顔をされないだろうか。
他の学生みたいに、王都にあるカフェでお茶をしてくれるだろうか。
去年は、王都に帰ることが苦痛でしかたなかったが、今年は少し楽しみにしている私だった。




