38 分岐点② 第二王子殿下
未だ結論は出ないまま、領地での穏やかな時間は過ぎていく。
領地を巡り、領民と触れ合い、子どもたちと遊んで、美味しい旬の食べ物を頂く。
学園の課題である、領地の発展のために必要なことを考えながら。
そんなある日のこと、クリスティン殿下がふらりと現れた。
「やあ、突然ごめんね。アイリス先輩が帰るって言ってたから、遊びに来ちゃった。」
「クリスティン殿下・・・あなた様はいつも・・・こちらの準備もありますので、次は事前にご連絡いただけると有難いのですが。そもそも私どもが不在ならどのようになさるおつもりで?」
お兄様は、少々ご立腹のようだ。
「アイリス先輩をびっくりさせようと思ってね。それに気を遣われたくはないしね。不在ならまた来るから気にしないでよ。」
なんとも軽い返事である。
王家のご公務はないのだろうか・・・自由なお方だ。
「二人ともいてくれて助かったよ。あのさ、二人とも経営学科だよね~?」
「殿下・・・まさかとは思いますが、学園の課題の件で来られたわけではありませんよね。殿下ともあろうお方にお教えすることなどございませんよ。」
「そんなこと言わずに、ね!それにさ、公務とかなくなったからヒマになっちゃってさ。」
「殿下・・・まさか我が家に入り浸る気ではありませんよね。それは流石に醜聞が悪いですよ。」
「ええ~、だめかあ・・・。天下のルーク・ノワールに教えを請いに来たとでも言えば、どうにかなんないかな~。」
「ダメです。妹の立場も考えてください。1日2日はいいとしても、長期滞在は認められません。」
「ええ~、そこをなんとか!」
それはまるで、しっかり者のお兄様が、出来の悪い弟を叱っているような光景だった。
「ふっ・・・ふふふふ。」
はっ、私ったら、つい笑ってしまった!
お兄様も、クリスティン殿下も驚いた表情で私を見ていた。
「あっ・・・私ったら。ご無礼をお許しください、クリスティン殿下。」
「アイリス先輩が笑ったのは2回目だね。」
「えっ、あ・・・中間試験のとき・・・あの時も大変失礼を・・・。」
「いいよ。その笑顔は、きっと君の兄上と僕しか知らないんでしょう?それで許してあげる。そのかわり!」
「そのかわり・・・なんでしょうか。」
「これからも、僕の前では我慢しないで笑うこと。そうじゃなきゃ不敬罪にするからね!」
「えええ・・・そんな・・・」
クリスティン殿下の顔から笑みが消えた。
「ついでにもう一つ。この休み中、兄上が各領地を視察することになってね。ここにも来るはずだから伝えておくね。」
「それは・・・まさか・・・」
「そういうこと。王家は兄上を後継者とすることに決めたみたいだね。悠長に構えている時間はなさそうだよ。」
エドウィン殿下の公務のご予定は、私には知らされていない。
その公務には、聖女様は同行されるのだろうか・・・。
「さようでございますか。仕方がないですね。それでは殿下のレポートに目を通させていただきます。そうですね・・・休暇が終わる10日前には仕上げることはできますか?」
「そこまでここにいるのは・・・」
「ダメです。またその頃においでください。僭越ながら私が殿下にご指導させていただきます。」
「ああ~・・・はいはい。わかりました。仕方ないなあ。お手柔らかに頼むよ。じゃあ、アイリス先輩、また来るね。」
その時までに、私たち兄妹の答えを出さなくてはならない。




