37 分岐点① 兄
長期休暇に入り、私は去年と同じようにリタを伴い領地へと向かう。
今年も天候に恵まれ、事故もなく、順調に領地へと到着した。
「おかえりなさいませ。アイリスお嬢様。」
執事のキールが、馬車の扉を開ける。
「お兄様に甘えて今年も来てしまったわ。しばらくの間よろしくね。」
「ルーク様もとても楽しみにされておりましたよ。我が主は待てができませんね。ほら。」
視線の先を見ると、すでに玄関の外で仁王立ちしているお兄様が見えた。
「ふふっ、キールったら。お兄様に言いつけるわよ。」
「おやおや、お嬢様も手厳しい。くれぐれも内緒でお願いしますね。」
キールにエスコートされ、お兄様のもとへ行く。
「お兄様、ただいま戻りました。」
「おかえり、リズ。今年もよく来たね。」
私の頭を優しく撫でる、温かくて大きなお兄様の手。
お兄様の側にいると、王都での緊張の毎日も、嫌な出来事もすべて忘れることができる。
「さて、リズ。疲れているだろうが、先に妹の相談を聞こう。」
「お兄様・・・実は」
私は、今自分が置かれている状況を説明した。
エドウィン殿下のこと、クリスティン殿下のこと、そして、私がどうするべきかをお兄様に話した。
「リズ、実はそのクリスティン殿下がここにも見えられてね。同じ話をされたんだよ。」
「えっ・・・それは、いつ・・・」
「一週間か10日か、そのくらい前になるかな。リズの手紙の相談はこのことだったんだね?」
「はい。手紙でお知らせしようかと思いましたが、万が一を考えて・・・。」
「それは正しい選択だったね。さすがはリズだ。エドウィン殿下に知られたら、大変なことになっていただろうからね。」
「お兄様、ありがとうございます。」
お兄様に褒められると、認められたようでやっぱり嬉しい。
「リズは・・・どうしたい?」
「クリスティン殿下のお話は、私たちノワール家にとって最善の道ではありますが、都合が良すぎるお話かと。なにか・・・裏があるのではないかと思いますが、私ではわからなくて。」
「その前に、クリスティン殿下と一緒にいることについて、リズは嫌ではないのかい?」
「・・・・・・。エドウィン殿下のお側にいるほうが嫌ですわ。」
「ははっ。リズも言うようになったね。・・・リズ、私は隣国とパイプがある。隣国に留学するという手もあるのだよ。」
「お兄様・・・いつの間にそんな・・・。でも今の私の身分をどうにかしなければ、難しいのではないでしょうか。」
「確かに、簡単な事ではないね。だけど私は、リズが望まないことはさせたくないんだ。」
「お兄様、貴族であるからには家のために嫁ぐのは仕方のないこと。私は、この領地を危険に晒してまで逃げようとは思いません。」
第一王子殿下の婚約者でありながら、王家の了解も得ずに隣国へ行くということは、この国に弓引く行為だと捉えられてもおかしくはない。
お兄様や、領民の人たちの幸せを犠牲にして、自分が自由になりたいとは思わない。
ならば、私の取るべき道は・・・。




