35 ルーク・ノワール
「ルーク様、またアイリスお嬢様からのお手紙を読まれているんですか?何回目ですか。はぁ~、シスコンは嫌われますよ。」
「キール、うるさいぞ。それよりこの手紙を見ろ。」
「私が見てもよろしいので?それでは失礼して、随分と短い・・・・・・これは・・・」
「王都で、というより学園でなにかあったんだな。」
「こちらの影を増員しますか?」
「そうだな・・・護衛を増員してもいいかもしれない。」
「かしこまりました。では早速手配します。しかしそうなると・・・今年の夏も帰ってこられるのですね~。良かったですね!ルーク様。」
「だから、キールは一言余計だ!」
私の名はルーク・ノワール。
アクオス王国の北に位置するノワール侯爵家の嫡男である。
権力に執着している父、社交にしか興味のない母に代わり、この領地の管理をしている。
今、私に軽口をたたいているのは、この家の執事であるキールだ。
タウンハウスにいる執事のセドリックの息子でもある。
歳の離れた妹のアイリスが両親の野望の駒になっていることは知っていた。
アイリスが父のように権力を行使し他の令嬢を貶めていることも、母のように着飾って第一王子に執着していることも。
そして、ああなってしまった以上、聞く耳を持たなくなってしまったことも。
昨年の夏、数年ぶりに会った時には驚いたものである。
まるで、この領地で幼少時代を共にした、あの時のアイリスが戻ってきたようだった。
さすがに・・・領地を駆け回るようなお転婆なことはしなくなったようだが。
そうか・・・今年も帰って来るのだな。
この領地へ、この兄のもとへ。
アイリスが、あの両親と暮らし、あんな風になってしまった責任は私にある。
私が両親を嫌い、離れたいがために、あのタウンハウスに置き去りにしてしまったのは、私だ。
ならば、そこから助け出すのは私の役目。
この王国に反旗を翻すことになろうとも、たった一人の家族は守ってみせる。
そのために、この領地を発展させることに尽力してきたのだから。
執務室から見える北の領地を見ながら物思いに耽っていたとき、
「ル、ルーク様、お客様です!」
と、キールが慌てた様子で、部屋に駆け込んできた。
「・・・客?今日は訪問の予定はなかったはずだが、誰だ?」
「それが・・・第二王子殿下にございます。」
「なに?第二王子・・・クリスティン殿下だと?」
アイリスの手紙の内容は・・・もしかしてこれが原因か?
一体・・・アイリスは、我が妹は、なにに巻き込まれているというのだ。




