33 二回目の夏
「アイリス先輩は、長期休暇はなにをしてるの?」
いつものように図書室で読書をしていると、隣にクリスティン殿下が座った。
クリスティン殿下は、あれからちょくちょくやってきては、こうして私に話しかけてくる。
「昨年の長期休暇は、課題のために領地に帰っておりました。」
「あ~、あれね・・・。なんかさー、面倒くさそうだよね~。だるいなあ。」
クリスティン殿下は、私と同じ経営学科を専攻されたらしい。
「それで、聖女のお披露目には出なかったってわけね。なるほどね~。で、今年は?」
「そうですね・・・まだ決めておりませんが、また領地に帰ることになると思います。」
「アイリス先輩にはお兄さんがいるんだっけ?」
「ええ。父の代わりに領地の管理をしております。」
クリスティン殿下は、なにを探っているのだろうか。
調べればすぐにわかることを、慎重に答えていく。
「アイリス先輩、先日のことなんだけどね。なるべく早めにお願いね。」
「・・・かしこまりました。少しお時間をいただけますか。」
「僕はいつまでも待ってられるけどね~。アイリス先輩のためにも早い方がいいと思うよ。父上が正式に後継者を指名するまでにはね。」
「・・・それはいつ頃でしょうか。」
「僕の予想だと、最終学年になる年かな。こっちもいろいろと根回しがあるからね。今年中だと嬉しいな。」
「今年のうちに、ですね。かしこまりました。」
「ねぇ、アイリス先輩、もう一つお願いがあるんだけど・・・」
「なんでございましょう。」
「あのさ・・・試験勉強、付き合ってくれない?もうすぐ中間試験じゃない。全然勉強してなくて、ちょっとヤバイんだよね。」
「え・・・ふ、ふふっ。」
予想していなかった言葉に、思わず笑ってしまった。
そういえば、初めて学生らしい会話をしたような気がする。
「ああ、笑わなくてもいいじゃない!ひどいなあ。」
「大変失礼いたしました。私でわかることなら・・・ふふふっ。」
不貞腐れてそっぽを向いたクリスティン殿下を、可愛らしいと思ってしまった。




