32 五里霧中
いったい、クリスティン殿下はなにをお考えになっているのだろう。
自ら王位継承権を返上され、外交官になりたいという。
そしてその傍らには私が必要だと・・・。
それより、一番問題なのは、エドウィン殿下が私を側妃にするという話だ。
もしかして、という疑念はあったが、まさか本当にそんなことを考えているなんて・・・。
私はエドウィン殿下に嫌われている。
エドウィン殿下の真っすぐな性格を考えても、私のところに通うとは思えない。
放置される側妃が、どれだけ惨めなものか・・・。
離宮に押しやられるならまだいい。
エドウィン殿下のご機嫌次第では、言いがかりをつけられた挙句、最悪、どこかに幽閉される可能性もある。
それでは、父親のメンツも丸つぶれだ。
もしかして、ノワール家の権威を削ぐため・・・?
クリスティン殿下のお話は、今の私には最適の一手だ。
とはいえ、話が上手すぎやしないだろうか。
それでクリスティン殿下になんの得があるというのか・・・。
・・・・・・だめだ、わからない。
やはり、お兄様に相談したほうがいい。
お兄様に手紙を書こうと、便せんに文字をしたためようとして、ペンが止まる。
これが、エドウィン殿下やクリスティン殿下の目に止まってしまったら・・・。
やはり、直接会って言った方が安全だ。
今年の長期休暇に領地に帰って相談しよう。
それまで、のらりくらり躱すしかない。
そして、お兄様への手紙には、
「直接お会いしてお話したいことがたくさんできました。今年の夏に帰るのが待ち遠しいです。早くお兄様と領地の皆様にお会いしたく思います。」
とだけしたためた。
優秀なお兄様のことだから、きっと察してくれるに違いない、という願いをこめて。




