29 第二王子殿下
第二王子殿下、クリスティン・アクオス様。
側妃様のただ一人のお子様・・・エドウィン殿下とは一つ違いだったか。
赤味がかったブロンドの髪に紫の瞳を持ち、アンニュイな雰囲気をお持ちで、正統派王子様のようなエドウィン殿下とは、対照的な印象である。
王宮に通っていた頃にお会いした時には、気さくに声をかけていただいた記憶がある。
基本、離宮でお過ごしになっていたから、ほとんど会うことはなかったけれど。
しかし、王族であることに変わりはない。
しかも、後継者争いの渦中にいらっしゃるお方。
学年も違うし、関わる機会もないだろうから大丈夫だとは思うが・・・。
今まで以上に行動には気を付けないと・・・。
その後ろから、また王室の馬車がやって来た。
その馬車を見て、私はそっとその場を離れた。
入学式から何日か経ったある日のこと、いつものようにお昼時間に一人図書室にいたら、
「こんにちは、未来の義姉上様。」
と、クリスティン殿下が私に話しかけてきた。
そして、隣に座り、片肘をついて頬杖をつき、こちらに体を向ける。
動揺してはいけない。
隙を見せてはいけない。
私は立ち上がり、カーテシーをする。
「ご無沙汰しております。クリスティン殿下。」
「ああ~、そういうのはやめて。ここは学園なんだし、なにより目立っちゃうよ。座って?」
「大変失礼いたしました。」
私は椅子を引き、殿下から離れて座った。
クリスティン殿下が、ぐいっと距離を縮めてくる。
「ねぇ、義姉上はいつもここに一人でいるの?」
「クリスティン殿下、その呼び方はおやめください。普通にお呼びいただけますか。」
「それもそっか~。まだ結婚したわけじゃないもんね。じゃあ、アイリス先輩でいいかな?」
いきなり名前呼び・・・馴れ馴れしいな。
「殿下の御心のままに。それで、私になにかご用でしょうか。」
「ねぇ、アイリス先輩。兄上のこと、あのままでいいわけ?」
「あのまま・・・と申されましても。なにを仰りたいのでしょうか。」
「ふ~ん・・・。アイリス先輩はどうでもいいって感じだね。そもそもキョーミもないのかな。あんなに兄上の後を追いまわしていたのに、どういう心境の変化だろうね。」
クリスティン殿下は、私に探りを入れているのだろうか。
なにか情報を引き出そうとしている・・・?
「恥ずかしながら、当時は私も子どもだったのです。今は淑女として節度ある距離を、と思いまして。」
「節度・・・ねぇ。それ、聖女に対するイヤミ?」
「とんでもございません。クラスも違いますから、聖女様とお会いすることもありません。どういった方かも存じ上げないのに、なにかを言うなどと、そんな・・・。」
まるで蛇に睨まれた蛙のようだ・・・生きた心地がしない。
クリスティン殿下は、こんなに恐ろしい方だったろうか。




