27 策略
それから、大きな出来事も起きず、表面上は何事もなかったかのように時間は過ぎて行った。
殿下は相変わらず、セレーナ様と一緒に行動なさっている。
学園では、殿下の評判は二分されている。
ノワール侯爵家に良い感情を持っていない人は、肯定的な評判だ。
セレーナ様を害する者から身を挺して守っている・・・害する者とは、きっと私のことだろう。
もう一方は、婚約者がありながら、という否定的な評判。
まともな貴族なら、そう思うはず。
私が自由を手にするために、なにをすべきか考える。
父親は、次期国王に娘を嫁がせ、強力な権力を手に入れたい。
母親は、次期国王の正妃の母として、社交界に君臨したい。
殿下は、愛する人と結婚したいが、お父様の後ろ盾が必要。
聖女様でありながら、平民という身分もネックになるのかしら。
身分・・・そうか、すべてを解決する方法がある。
今日は、珍しく父親がタウンハウスにいる日。
この機会を逃す手はない。
「お父様、お話があるのですが。」
「なんだ、アイリス。」
「お父様、殿下との婚約を解消してほしいのです。」
「・・・なにを言うかと思えば、そんなことを。だめだ、認めん。」
「お父様も、もうご存じでしょう?殿下と聖女様のお話は。」
父親が鬼の形相で私を睨む。
私は宝石をギュッと握りしめ、父親に相対する。
「一つ、方法があります。」
「方法だと?」
「はい。殿下と聖女様が結ばれるためには、聖女様の身分がネックになるものと。」
「・・・それがどうした。」
「ならば、聖女様をノワール家の養女とすればよろしいのでは?そうなれば、殿下も愛する人と結ばれ、お父様、お母様の悲願も叶うのではないでしょうか。」
「・・・・・・それは・・・お前はそれでいいのか、アイリス。」
よし、乗った。
「私は、学園さえ卒業させていただければ、それでいいのです。」
「婚約破棄された令嬢となれば、次の嫁ぎ先は厳しいぞ。」
「学園を卒業したら、除籍でもなんでもしていただいて構いません。平民であれば、そんな必要もありませんでしょう?」
「それは、確かにそうだが・・・お前が平民でやっていけるわけないだろう?」
「卒業まで、あと2年ございます。2年もあれば市井の暮らしの準備をするのは充分かと。」
「しかし・・・」
かなり渋っているようだ。
『正妃の親』という権力欲しさに実の娘を追い出した、と言われるのが嫌なんだろう。
しかし、その権力を使えば、そんな陰口なんてどうとでもなるはず。
「お父様、仮に私が正妃となり、聖女様が側妃となった場合、どういう事態になるかは明らかです。ここで足踏みしていると、他家に後れをとりますよ。そうなってからでは遅いのです。それに・・・同じ家から正妃と側妃が出てしまったら、さすがにやりすぎですから避けたほうがよろしいかと。」
「それもそうだな。アイリス、お前の申し出を受けよう。本当にそれでいいのだな。」
「はい。私も努力はしましたが、聖女様のご威光には敵うはずもありません。申し訳ございませんでした。」
私が考えていることなど、他家ならすでに考えて動いているはず。
間に合ってくれることを祈るしかない。




