23 いざ王都へ
長いようであっという間だった長期休暇が終わり、王都へ戻るため馬車に乗り込む。
「リズ。たまには兄に手紙を送っておくれ。」
「はい。お兄様に甘えて毎日送ってしまいそうですが、その時は許してくださいね。」
「可愛い妹からの手紙は、毎日でも嬉しいさ。リズ、学園を卒業できなくても、なんの問題もない。もう無理だと思ったら、迷わずここに帰ってこい。」
「お兄様・・・ありがとうございます。」
「リズ、自分を大切にするんだ。お前にはこの兄がついていることを忘れるな。」
お兄様は最後に私の頭を優しく撫でてくれた。
お兄様に見送られ、帰路につく。
「お嬢様、領地に来て良かったですね。お顔の色がとてもよくなりましたよ。」
「そうね。これから先のことを思うと頭が痛いけど、帰ってから考えることにするわ。」
「それがようございます。王都まで一週間ありますから。」
馬車に揺られながら、雄大な自然を眺める。
お兄様は「物事の裏側を見ろ」と仰っていた。
聖女様を取り込もうとする王室。
裏を返せば、聖女様がいなければ求心力を保てなくなっている、ということだ。
それに、貴族の後ろ盾がなければ後継者選びもままならないということ。
殿下と聖女様がくっつこうが離れようが、そんなの些細なことだ。
私は・・・この土地に生きる人たちと触れ合ってしまった。
アイリスの、独りよがりな想いがとても小さなものに見えてしまう。
殿下のことを考えると、まだ心臓がギュッと痛むけど。
私は、殿下のことがこれっぽっちも好きじゃない。
あんなに嫌悪の眼差しで私を見る人を好きになるわけがない。
そんな私の思いとは正反対のアイリスの想いとで、心が引き裂かれそうになる。
・・・カミサマの言ったとおり、簡単な事じゃなかった。
でも、大丈夫。
私は私のやるべきことをやるだけ。
聖女様に手を出さず、学園を卒業し、この領地に帰り、お兄様と一緒に暮らす。
そのために、アイリスの想いはすべて殺す。
決意を新たに、私はまた手袋をつける。




