2 今の私
私は、茨野あやめ、19歳。
両親と妹がいる、ごくごく普通の女の子だ。
家族との仲も悪くはないし、多くはないけど友達もいた。
お金持ちじゃなかったけど、生活に困るくらい貧乏じゃなかったし、それなりに幸せだった。
最初はちょっと体調を崩したのかな、くらいに思ってた。
けれど、どんどん悪化していって、診察を受けたら難病だって言われ、即入院。
それが、18歳のとき、高校3年生の夏だった。
病気はちっとも良くならず、1年後の今、こうして死を迎えようとしている。
そして、目の前には、「天国には行けないよ」と言った男の人がいる。
「・・・天国に行けないって、どういうことですか。」
「ん~、そのままの意味。あやめちゃんの魂はね、休むことを許されてないんだ。」
何を言っているのかわからない。
「そうだよね。こんなことをいきなり言われてもわからないよね。じゃ、順を追って説明するね。」
「んんっ。」
その男の人が一つ咳ばらいをした。
「最初の君がさ、聖女を殺しちゃったの。でね、聖女に加護を与えた女神さまが怒り狂っちゃってさ~。未来永劫、君が苦しむ・・・わかりやすく言えば、呪いをかけたんだよね。」
「最初の私・・・?人を殺した・・・?」
ますます意味がわからない。
「最初の君は、聖女様を殺した罪で処刑されたんだよね。でさ、生まれ変わるたびに、聖女様が死んじゃった19歳で命を落とすよう呪いをかけられたんだよ。」
「え・・・」
「普通はね、寿命を全うすると、君たちが天国って呼んでいるところで少し休息をとってから、また生まれ変わるわけ。でも、君は休息をとることも許されず、また違う者に生まれ変わって、そして19歳で命を落とす。君のこれまでの最期、そりゃあひどいもんだったよ~。」
そういえば・・・最近、ひどい夢ばかり見ていた気がする。
私が死ぬ夢ばかりだった・・・しかも惨いものばかり。
「悪逆非道の限りを尽くしてギロチン送り、盗賊に襲われて惨殺、魔女狩りで火あぶりっていうのもあったな。でも時間が経つにつれて、マシになっていたんだよね。戦火に巻き込まれてとかさ、最近だと交通事故とか。」
そんな・・・病気のせいであんな夢見ていたと思ってたけど、私が体験してきたことだったの?
「今回は病気だね。最期の形は違っても苦痛を与えられ続ける。そして、君は悪いことはなーんもしてない。けど、過去の行いのせいで19歳で死んじゃう。ね、なんか理不尽だと思わない?」
それは・・・確かに。
魂のことはわからないけど、過去の私は今の私じゃないし。
「それでさ、ここからが本題なんだけど・・・助けてあげようか。」
その男の人はそう言って、ニヤッと笑った。