19 家族
「リズも学園に入学したんだな。経営学科を選択したと聞いた時には驚いたよ。」
「そうですか?私に淑女学科は似合わないでしょう?さすがに騎士学科には行けませんし。」
「ははっ、確かにそうだな。それで?王都でなにかあったのか?」
「いえ。長期休暇の課題が領地について、だったので、そのために。」
「ああ、なるほど。そういうことか。1年生の課題はそれだったな。」
「お兄様の時代から変わってないのですか?じゃあ、もしかして・・・」
「・・・リズ。私のレポートを丸写ししようだなんて思ってないだろうな。手伝いはするが、自分でやらなければ意味がないぞ。」
「あら、バレてしまいましたか。せっかく楽ができると思ってたのに、残念。」
ルークお兄様とは7歳ほど歳が離れている。
幼少時、私たちは自然豊かな北の領地で過ごしたが、お兄様が学園に入学される年齢になって一緒に王都へと引っ越してきた。
お兄様は、学生寮に入ると、タウンハウスに帰ることは滅多になく、卒業と同時に領地へと帰られた。
お兄様も、経営学科を専攻されていた。
そして、学園を首席で卒業した、優秀な生徒であった。
中央の各部署から引く手あまただったのに、それらをすべて断り、領地へと引きこもった変わり者だと世間では言われていた。
「ところでリズ、第一王子とはどうなっている。」
先ほどまでのくだけた口調から、がらっと変わった。
「どう、とは。」
「お前が経営学科を選択した、ということは、そういうことだな。」
「そういうこと、と言われましても・・・。なにを仰っているのかわかりませんよ、お兄様。」
「いろいろ話は聞こえてくるさ。お前、婚約者の座を降りるつもりだな。」
「・・・・・・」
「沈黙は肯定と受け取る。そうか・・・よく決断したな。」
「・・・え?咎めないのですか?」
「何故?そもそもリズに王妃は無理だろう。それに・・・あの第一王子は好かん。」
「お兄様・・・そんな不敬な。」
「リズ、私はお前の選択を応援する。父や母のことは気にしなくていい。卒業したらここに帰ってこい。私と二人でこの領地を守っていこう。」
「お兄様・・・ふふ、小姑がいたらお兄様にお嫁さんが来ませんから、お気持ちだけ受け取っておきます。」
「それこそ余計なお世話だよ。・・・いいか、一つ言っておく。市井に降りることだけは認めない。私たちは家族だ。リズはたった一人の血の繋がった妹だ。お前になにかあったら、この兄が助けてやる。それを忘れるなよ。」
「お兄様・・・そこまで・・・ありがとうございます。」
アイリス、あなたが欲しがっていたものは、ここにちゃんとあったよ。
私にとって、『家族』と呼べる人は、目の前にいるお兄様だけだ。
私がいるべき場所は、王都じゃない。




