18 私の兄
長期休暇に入り、その翌日には領地へと出発した。
旅路は順調、天候にも恵まれて、一週間後には領地に到着した。
「おかえりなさいませ、アイリスお嬢様。」
本宅の執事が出迎えに来る。
タウンハウスにいる執事より、だいぶ若い。
「急なお願いを聞いてくれてありがとう。しばらくお世話になります。」
「とんでもございません。ここはアイリスお嬢様の家。お礼など不要にございます。」
執事にエスコートされ、我が家へと足を踏み入れる。
タウンハウスのような華美な装飾はない。
良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景な内装であるが、使われている家具類は一級品。
さすが領主の家、である。
2階から誰かが降りてきた。
私と同じ黒い髪、無表情でこちらを見ている。
この方が・・・アイリスのお兄さん・・・ルーク・ノワール。
「お兄様、ただいま帰りました。しばらくご厄介になります。」
にこりともしない兄の顔に、歓迎されていないのではと不安になった。
「ああ・・・おかえり。よく来たな。ゆっくりしていくといい。」
無表情で言葉は少ないが、私を歓迎してくれる・・・家族からもらった初めての温かい言葉だった。
「ルーク様、そのお顔では全然伝わりませんよ。アイリスお嬢様がお帰りになるのをあんなに楽しみにされていたのに。」
執事が苦笑しながら兄に話しかけた。
「キール、余計な事を言うな。リズ、疲れただろう。今、お茶を用意させるから、こちらにおいで。」
リズ?
もしかして、アイリスの愛称?
その瞬間、ふわっと体が温かくなった気がした。
「どうした?久しぶりで兄の顔も忘れたのか?」
「あ、いえ・・・。リズと呼ばれたのは久しぶりで・・・なんだか懐かしいな、って。」
そんな私を見たお兄様の眉間に、少し皺がよった。
「・・・そうか。リズも疲れているようだな。ほら、行こう。」
お兄様が私の背中に手を回し、優しく押された。
その手はとても温かかった。




