15 王妃のお茶会
学園に入学してから、月に一度、王妃様のお茶会に呼ばれている。
王妃教育は、学園にいる間はお休み。
勉強が嫌いなアイリスは、ラッキーだと思うに違いない。
それでも、第一王子の婚約者である以上、公式行事などには呼ばれる場合もある。
そのため、王室のマナーを王妃様直々にご指導を受けることになっていた。
・・・公式行事なんて、一度も呼ばれたことはないけどね。
今日も王妃様のお茶会に参加している。
扇で口元を隠し、まるで私を値踏みしているようなその視線には、いつまでたっても慣れることはない。
失礼のない服装で参加しているが、手袋は外さない。
これは、私を守る装備だからである。
最初は咎められたものの、「日焼けをしてしまったら、殿下と釣り合わないと思いまして、せめて・・・」
と言い訳をした。
「それはいい心掛けね。」とは言っていたものの、王妃様の本音がどうなのかなんて、わかるわけもない。
「アイリス、来月のお茶会だけど、公務が入っていてね。お休みになるわね。」
「さようでございますか。」
私は知っている。
公務で中止するのではない。
聖女様が現れたことで、私を婚約者から外すため、距離を置くことにするのだろう。
聖女認定されたセレーネ様は、王宮の近くにある中央神殿で保護されている。
目と鼻の先だ・・・これからはセレーネ様が王宮に通うことになるのだろう。
来月どころか、未来永劫、お茶会には呼ばれないのではないだろうか。
私としても、生きた心地のしないお茶会なんて出席したくもないから、渡りに船だけど。
それから二言三言、言葉を交わし、お茶会は解散となった。
王妃様の部屋から帰る際、その前に広がる見事な庭園を眺めるのが好きだった。
よく手入れされていて季節の花が咲き誇る庭園・・・これはノワール家にはないものだ。
その庭園の中にはガセボがある。
あそこで、花を愛でながらお茶を楽しみたいな、と何度思ったことか。
今日も庭園を眺めながら帰ろうかと思い、そのガセボを見た瞬間、足が止まった。
エドウィン殿下とセレーネ様が、楽しそうに二人でお茶会をしていた。
言いようのない負の感情が私を支配し、心臓がこれまでになくギューッと痛くなった。
わかってはいたけど、あんな顔、アイリスの前では決して見せなかった。
それに、王宮で殿下とお茶会をした記憶なんて、ほとんどない。
アイリスが執務室に押しかけ、無理矢理お茶に誘って、しぶしぶ付き合ってくれたぐらいだ。
もちろん、感情のこもっていないアルカイックスマイルで。
ガセボに向かって走っていこうとする体を、柱につかまりながら、必死に抑えつける。
そして、手袋の中にある宝石を思いっきり握りしめる。
イタイ、イタイ、イタイ、イタイ・・・落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け。
その場にしゃがみこみながら、必死で殿下への想いを潰していく。
私がしゃがみこんでいることに気付いた侍女が駆け寄ってきた。
「アイリス様、どうなさいましたか?具合でも・・・」
他の者を呼ぼうとした彼女を、そっと制止する。
「大丈夫です。少しつまづいただけ。もう歩けますから大事にしないで。」
「それは失礼しました。お気をつけて。」
侍女のおかげで、どうにか正気を取り戻した私は、急いでその場を後にする。
淑女たるもの、決して走ってはいけないが、そんな余裕は私にはなかった。




