10 学園入学
翌日から入学までのわずかな時間、私は勉強にあてた。
学校で習うような勉強ではなく、この国のことを調べるために、タウンハウスにある蔵書を見繕っては読み漁った。
朝起きてから夜寝るまで、それこそ昼夜問わず、時間の許す限り本を読んだ。
両親は、そんな私のことを知らないし、気にかけることも勿論ない。
父親は、仕事のためほとんど帰ってこないし、母親はお抱えの行商人を家に呼んで買い物をするか、社交の場に顔をだすかである。
タウンハウスいる執事とリタだけが、人が変わったようなアイリスの行動を見て心を痛めているような顔をしていた。
そしてアクオス学園への入学式の日となる。
久しぶりの制服に袖を通すと、とてもワクワクした気持ちになった。
制服は、華美なものではなく、落ち着いた紺色のジャケットにスカート、シャツは基本白である。
ただし、タイの色で身分を示すルールがあった。
王族と王族に連なる公爵家は紫、続いて侯爵家は青、伯爵家は赤、子爵家は黄、男爵家は緑、そして平民は黒である。
私のタイの色は、侯爵家なので、青色である。
男性はネクタイふうに、女性はリボンのように結ぶ。
平民は、主に商人の子どもや、特に優秀だと認められた人が通う。
クラスは、私が思った通り、成績順で、SからCクラスまでとなっていた。
アイリスがCクラスということは・・・最後から数えたほうが早い、ということである。
学園までの送迎は、侯爵家の馬車である。
婚約者がいる人は、よほど距離が離れていない限りは、二人で通学するのが普通である。
エドウィン殿下とアイリスが良好な関係であれば、王家の馬車で二人で通学するのであろう。
侯爵家の馬車から降りた私を見て、ヒソヒソと話している人もいる。
やはり、婚約者がいながらエスコートがないことに疑問を持つ人もいるのだろう。
タウンハウスと王宮は、それほど距離が離れているわけでもない。
それに、まったく優秀ではないのに親の権力で婚約者の座を勝ち取ったという評判がついてまわるアイリスだ。
好奇の視線にさらされているのは、間違いない。
私は、レースの手袋の中に潜ませている、宝石の原石をギュッと握る。
鋭利な先が掌に食い込む。
カミサマにもらった「ほんの少しの治癒の力」を同時にかける。
これは、本来のアイリスの感情に引っ張られないように、試行錯誤をした結果だった。
喜怒哀楽を痛みで誤魔化す、という方法だ。
宝石の原石は、母親のもとへ来た行商人から購入した。
もともと、エドウィン殿下のためにあれやこれやと買い求めていたのである。
原石を一つくらい買っても、どうってことはなかった。
根本的な解決にならないのは承知のうえだが、短絡的な行動をしないためには、その場でやりすごさなければならない。
油断すると、感情を持っていかれそうになる。
特に、エドウィン殿下のことになると、自制がきかない。
痛みだけを残し、傷は治癒の力で治す。
一週間、練習に練習を重ねて、どうにか習得することができた。
・・・学園にいる間、手袋は外せない。
他人に、どんなに揶揄されようとも外すことはできない。
顔を上げ、私は入学式の会場へと向かった。




