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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎二つ目のラビリンス編⭐︎
8/50

第8話 迷路と雷。ズルはダメ

 魚の上を渡り直して、岸側に戻る。

 前に広がる闇の中へと進んでいき、抜けて外へと出ようとしたら、あれ、と思い、彼女は目を瞬く。


 前には湖とラビリンス。


 本来後ろにあるべきものだ。ただ視界の悪い所だ。

 途中で歩く向きが変わり、戻ってしまったのかと思い、再度同じことを。また同じ光景を見る。


「なんで――」


 繰り返す。何度も。出られるようになるまで。しかし──、


「なんで、なんで出られないの!?」


 何度試してみても結果は同じ。同じ所まで引き返してしまう。


「…………」


 言い知れぬ恐怖に襲われて、彼女は息を呑む。

 思わず掴んだペンダントから力を感じた。

 すると不思議と安らぎを覚え、恐怖も薄れていく。


 服の下を覗き見れば、核が怪しい光を帯びており、

 

「力を貸して。ヴァンパイア」


 そう口にすれば、上がった光が前を覆う。

 不吉な感じの笑い声はしてこず、代わりに蠱惑的な響きを乗せた囁くような声が、耳の傍でされたようにした。

 

『そう。私がいるじゃない。私を頼ればいいのよ。可愛いレトリ』


 名を呼ばれたことには少々驚かされたが、心強くも感じ、一人じゃないと思うと元気も出てくる。

 

「ごめんね、ヴァンパイア。それにありがとう。ちょっと誤解してた」


 もっと怖い子のように思っていたが、今は良い子なんだと思う。気持ちを持ち直し、羽ばたき立った。


 ラビリンスの中へ。


 帰れないのなら謝りたい。殴られたとしても。覚悟はできている。


 曲線を描いた長い長い一本道が、ここでも見え、今度はその先に小さな黒い影が蠢く。


「こい、赤いステッキ」


 並外れているのは、腕や脚の力だけにあらず。

 視力もそうであり、彼女の目は正確にその影の姿を捉え映し出す。


「モンスター、だよね」

 

 外のモンスターとは見た目が全然違い、全部が真っ黒。

 それで判り辛いが、相手も武器を手にしている。

 小人のような感じ。

 意を決して、進む。傍までくる。


「げぎゃ! げぎゃぎゃあ!」


 荒々しい声を上げ、飛び掛かってきた。

 応戦してステッキ振り回し、頭を吹っ飛ばした。


「――うわっ!?」


 そこまでする気はなかったのだが、自然とそうなった。

 体が溶け、丸みを帯びた石だけが残る。

 宝石のような光沢も帯び、拾い上げた。


「核、だよね? わたしのと全然大きさが違う」


 ふとその時、こう思う。


「強さかな?」


 もしくは、希少性。

 今のモンスターは弱かった。

 あれで良い核を落とすなら随分楽して稼げる。


 多分そう、と結論付けつつ、奥へ奥へと突き進む。

 その中で何度も遭遇したモンスターを彼女は倒すことになる。


 羽があって飛んでいたり、豚みたいに太っていたりと、姿こそ違えど、弱いことに変わりはなく、そのうち倒すことにも慣れ、作業感覚にもなる。


 退屈。とまではいかないが、思考は目の前のことより他所へ。彼のことを考えてしまう。


 前は全部倒してあったのに、今度は恐らく全部残してある。

 通路は狭い訳ではなく、横を抜けていくくらいのスペースは裕にあり、あの機械の脚なら余裕だろう。


「まさか、わたしの足止め目的だったり」


 あり得る。むしろその線の方が濃いとすら思った。しかし呆れや苛立ちは湧いてこない。


「付き纏いまくったからだよね。ほんとごめん」


 湧くのは、謝罪の気持ちだけ。今一度、心の中で深く彼に頭を下げて、止めていた足をまた出し始め、そのまま次の階へ。


「うわ、何ここ。本がいっぱい」


 夥しい数のそれを中に収めた背の高い棚が所狭しと並べられ、前を覆う。

 頭上に目を向けてみれば、巨大な天球儀。


 高い高い天井の所に吊り下げられており、前回のラビリンスとは一転、学びの庭にでも迷い込んだよう。


 その全容をここから見渡すことはできない。

 気になって、彼女は棚から一冊抜き取って、開く。


「うぅ、難しい言葉ばっかり。読めない」


 文字がみっちり詰まり、絵も多少はあるが、理解は不能。途端に目眩を覚え、その本を棚に戻す。


「よし」


 仕切り直して、彼の捜索を開始。

 しかし広い。分かれ道も多く、まるで迷路。

 そう易々と抜けられるような場所には感じない。

 ゆえ、前回同様まだいるように思うが、この中から見つけ出すのは骨だ。


 やっぱり上からかなと、そう思い、羽ばたき立つが、直後に妙な音が鳴り響く。


 ビー、ビーと煩く、次の瞬間、天球儀から雷が落ちて、全身が痺れ上がった。


「あばばばっ、ばば!?」


 かなりの痛みで、落ちもする。下で「いったぁ~」とこぼしつつ、上から行くのを彼女は断念。


「迷路だからズルするなってこと。なら」


 反省のち、駆け出す。

 今のは大きな音だった。

 もし彼がここにいたなら、今ので気付かれ、もっと遠くへ行かれてしまった可能性もある。


 急がないとと思うが、足元から光が上がる。

 何だ、と思った次の瞬間には、光が収まり、目の前の景色に変化が。


 棚の作り出す迷路の感じが先程までとどこか違う。


 よく見れば、来た所が埋まってしまっており、あれーと不思議に思いつつ、そこまで戻る。

 すると、また光が上がった。

 また迷路の様相が変わる。


 変なの、と思ったのも束の間、重大なことに気付いて、彼女はハっとした。


 こんなにころころ景色を変えられたら、道を覚えるなど不可能。

 どど、どうしようと半ばパニックとなり、そこからただ闇雲に、がむしゃらに駆け続けて、気付けば一周してしまったようで、最初の地点。


「降りる階段……」


 手に取った本もある。

 綺麗に収まっておらず、少し浮いていて、わかりやすい。


「あ!」


 これだ、と閃くものがあり、今度は目印をつけながら進む。

 よく観察してみると、他にもそんな目印にされたであろう少し浮き出た本がいくつもあり、同じことをしたんだと思う。


 彼の足跡を辿っていると、そっちじゃない、と急に内から声がして、足を止めた。

 

『あなたを迷わせようとしている。彼の性格は知っているでしょ』


 続けてそう聞こえ、


「ゴルくんめ」


 そこまでするかと、これには多少の苛立ちも覚えたが、ヴァンパイアに礼を言い、印がついた道の逆側へ。

 丁度分かれ道となっており、痕跡も失せたが、彼のことだ。


「どうせ本のタイトル覚えてったんでしょ。知ってる。頭良いもんね」


 引っかかったりするもんか。

 こっちには心強い相棒がいるんだ。

 と、少し進めば先には広い空間が。


 やっぱりと思い、彼女は迷路の外へととび出していく。


「ゴルくん!」


 いない。代わりにいたのは、シルクハットを被った奇術師のような格好をした女の子で、誰と思い、目が点になる。


「さっきの警告音っぽい音を鳴らしたのは、あなたね」

「あ、うん。そうかも。初めまして」

「ここの出口を見てないかしら」


 その子が髪を掻き上げたことで、気付く。

 顔も整っているが、恐ろしく髪の綺麗な子だ。

 艶々で、どんな魔法を使えば、そんなに美しく伸ばせるのか。見惚れて声も出ない。


「どうしたの?」

「ううん! なんでも。それってここじゃないの?」

「あ、そう。使えないわね。もう行っていいわよ」


 さっきの印象など吹き飛んで、何だこいつと、彼女は呆気にとられる。

 この取り付く島もない感じ、口の悪さ、似ている。心の中で言ったつもりが、少しだけもれた。


「ゴルくん二号め……」

「何か言った? ああそれと、言い忘れてたけど、出口を見つけたら必ず私の所まで戻ってくるように。置いていったら承知しないから」


「はあ? あなたなんか知りません。わたし急いでるので」

「まあ、なんて物言い。その口縫いつけられたいのかしら」


 その子が片手を振ると、付けた手袋の先から伸びた糸がピンと張り、馬に跨った甲冑姿の騎士が棚の陰から姿を現す。

 逆側の手が振られると、こちらを威圧するかの如く、跨る馬を進めてきた。

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