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墓標のラビリンス 天使ヵ悪魔ヵそれとも魔女ヵ  作者: らくだ けい
⭐︎二つ目のラビリンス編⭐︎
7/50

第7話 モンスター。決裂と別れ

 二人は礼を言い、手を振り去る。


「受け取っちゃった。どうしよう?」

「要らないのなら全部よこせ」

「ダメだって。半分」


 月明りがあり、進むには事欠かない。

 仄かに落ちるそれを呑む、真っ暗闇が先には広がる。大きい。その異質さが一目でわかるほどに。


「湖にできたって言ってたけど、どこだろ?」

「中だろ」

「なか?」

「目の前の瘴気のだよ」


 しばらく歩いて、その中へ。

 すると少し目にしみ、咽せもした。視界も悪い。


「くそ、最悪だな」

「全然前が見えないよ」


 言うなら煙の中でも歩くような感覚か。

 急に目の前がパッと明るくなり、それは目に飛び込んだ。

 広い湖の上に浮かんだ大きなラビリンス。

 前見たものより二回りは大きい。


「光ってる」


 綺麗、と彼女は思う。

 

「お星様の国にでも迷い込んだみたい」

「なんでだよ。頭メルヘンか」

「だって、光ってる」

「だけだろ。意味わからん」


 浮かべた彼の呆れ顔は、すぐにニヤついたものへ。


「当たりくさいな」


 その直後、湖から大きな水飛沫が上がり、バシャン、と奇怪な魚が飛び出してきて、槍を向けてくる。

 魚の癖に手がある。足がある。体も大きい。


 からん、と乾いた音が傍でして、気付けば隣で剣が抜き放たれ、剣呑とした空気が場を包む。


「外に出るやつか。聞いた通り黒くないんだな」

「ゴルくん、この魚何? 槍持ってるけど」

「モンスターだよ」

「モンスター!?」


 外にまで出るというのは、初耳であり、あたふたとする彼女だが、すぐに胸に手を当てる。

 しかし変身できるような感じがせず、パニックを起こす。


「なんで、なんでぇ!? 力を貸してよ、ヴァンパイア!」

「落ち着け。ラビリンスに乗らないと力は使えない。わかったら足元のそれでも拾って構えろ」


 地面に落ちた杖の足を彼に示され、持つ。

 軽いが、硬い。武芸者のように正眼に構えて対峙。偶然そんな形になっただけだが。やる気は十分。


「お前、できるのか?」

「何を。今話しかけないで。集中してるから」

「まあいい。どうせ俺に来るだろ。弱い方や動けない奴を普通は狙うもんだ」


 足の不自由な彼だ。今は片足で立っており、確かに逃げられない。

 まずいじゃん、と思った彼女の方に魚は駆けてきて、槍を突き出してくる。


「躱せ、もしくは受け止めろ」


 受け止める方を選択。ガチ、と三又の先を止めた瞬間、隣から剣が突き込まれる。

 血が噴き上がり、グェ、と妙な声を出して魚は横に倒れた。赤い斑点のついた顔で彼女は目を瞬く。


「うわ、服が血塗れ!? これ落ちる!?」

「知るか。それに一匹見掛けたら百匹はいると思えって言うだろ」


 どういう意味か、問いかける暇もなく、立て続けに水飛沫が上がって、わんさか同じ見た目の魚共が岸に上がってくる。

 次の瞬間には、一斉に襲い掛かってきて、彼がぴょんぴょん前へ跳ねていき、一人で迎え撃つ。


 足一本でくるくる回って剣を振り、来る奴来る奴ばっさばっさと斬り捨てていくさまは、舞いでも踊っているかのようで、美しく、見惚れていると、


「ぼさっとしてんな! 全部俺にやらす気か!」


 怒鳴られ、びくっとしたあと、彼女も参戦。

 一匹、二匹とぶっ飛ばしている内に爽快感を感じるようになり、気分良くカンカン打ちこんでいると、周りの視線が集まってくる。


「え、えぇ。全員こっち……?」


 猛打賞どころかホームラン王を狙える勢いだ。

 派手にやり過ぎた。

 次代の球界エースをマークする構えであり、そこで攻守が逆転。

 流石に無理と逃げる。足の速さにむらがあり、伸びてきた所を叩く。


「どうだ、って今度は逃げるのか!」


 反撃開始、今度は逆に追いかけ回す。増援が来てまた逃げて、いい加減にしろと、群れにぶち込んだ弾丸ライナーで勝負は決し、魚共は引いた。


 湖の中へ逃げていく。


「はぁ、はぁ、数多過ぎ。なんでこっちにばかり」


 大分彼の所から離れてしまっており、戻る。すると笑われ、返した鞘は彼の手元で一本の杖に戻る。


「なんだ今のは。コントだな」

「笑わないでよ! こっちは必死だったんだから。――あ、核は!?」


 落ちていない。どころか死体がそのまま残っており、首も傾く。あれーと。


「こいつらは生きた魚が瘴気で変質したものだ。早い話が核は落とさない。持っていないからな」

「なんで、モンスターなのに……」

「内モンスターは落とす。外モンスターは落とさない。ラビリンスの内と外という意味だ。これなら理解できるか?」

「納得はできないけど」

「お前の頭ならそうだろうな」

「むぅ」

「それより見ろ。お前のおかげでラビリンスまでの道ができた」


 ラビリンスは、湖の上。

 本来であれば、そこまで泳いでいくしかないが、水の中にはあの魚の群れ。水中戦しながら泳ぎ切るなど人間業ではない。


 しかし今は、飛び石のようにその魚が上に沢山浮いており、上を渡っていける。


「抱っこしてけってこと?」

「冗談言うな。おんぶだろ。言ってて俺だって嫌なんだ」

「はいはい、じゃあ抱っこしちゃいますからね。大人しくしてるように」


 なんでそうなるとばかりに、彼の顔色が見る間に変わり、怒りを爆発させる前に尻から持ち上げ、問答無用で抱き上げる。

 するとゴトと足元で音がした。

 杖を落としたようだ。


 無視して、駆け出し、彼女は岸から魚の上へジャンプ。次々渡っていき、ラビリンスの上へ。

 

「はい、終わり。ゴルくんよく我慢できました。偉い、偉い」


 下ろすと、彼は立たずにそのままぶっ倒れ、死んだ魚の目で上を仰ぐ。


「余計なこと言うからそうなるんだって」


 しばらくすると気絶から回復したが、すぐに怒りを爆発させた。怒声が響く。


「お前ふざけんなよ、マジで!」

「ゴルくんが悪いんじゃん。わたし謝らないから」

「ああそうかい。好きにしろよ。じゃあな」


 いくぞ、魔導兵士と口にして、彼は変身。

 シュィーンと駆け出すサインを響かせ、彼女の荒らげた声が上に被さる。


「どうしてそう自分勝手なの!」

「お前が、お前がついてこなきゃいいだけの話だろ」

「仲間じゃん! 一緒に頑張って、巨人倒して」

「迷惑なんだよ。何度言えばわかる」

「わかってくれないのはゴルくんの方じゃん! この分からず屋!」

「もう黙れよ」

「黙らない!」


 こんな口喧嘩をするつもりはなかった。

 しかし売り言葉に買い言葉で熱が入ってしまい、次の瞬間、拳が振るわれ、彼女の顔の前でピタと止まった。


「次は当てる。口でわからなくたって、痛けりゃ理解するだろ」

「……今、やりなよ」


 拳を下げて、彼は背を向けた。


「やらせんな。だが本気だ。いいか、二度と俺の前に現れるなよ。俺だって女を殴りたくはないんだ」


 行ってしまう。


「何がだ! 殴れよ! この薄情者! 置いてくな!」


 その背に感情のまま叫びをぶつけると、気持ちが昂り過ぎていたせいか、涙が滲んで目元を拭う。

 今度ばかりは、追いかけようという気も起きない。


「なんなんだよ、あいつ」


 口が悪くて、ぶっきらぼう。冷たくて、優しいところもあって、結構良い奴に感じて、彼のことを考えている内に、自身の悪いところも見えてきて、彼女は少し思う。


 厚かましすぎたかな、と。


「仕方ないじゃん。怖かったんだよ」


 初めてのラビリンス。

 右も左もわからず、心細く、不安に感じていた。だから彼に付き纏い、その不安を解消しようとして、何度彼の言葉を無視して気持ちを踏みじった。


 自分を押し付け身勝手を押し通してきた。


「だって、それは――」


 言い訳じみた言葉は、喉から外にもれることなく呑みこまれ、湧いてきた後悔と贖罪の気持ちで胸が詰まる。


「わたし、バカだ。どうしてもっと考えてあげられなかったんだろう。自分のことばっか考えて」


 できるなら謝りたい。しかしどんな顔して会いにいけば。火に油を注ぐようなことにもなりかねない。


 気持ちを落として、大いに反省。

 これを機に言われた通りにしようと思う。


 帰れ、とよく言われてきたこともあり、彼女は引き返すことにした。

 今はシスターの顔が見たい。孤児院の皆の顔が見たい。

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